カレッジマネジメント212号
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76リクルート カレッジマネジメント212 / Sep. - Oct. 2018ない政治家、有識者、事務局職員等が主導することで、不十分な知識や情報に基づく政策立案が行われる可能性もある。また、各省庁の審議会が諮問から答申まで一定の時間をかけているのに対して、短期間に答えを出す例も多く、十分に練り上げられたものか疑問も残る。例えば、2017年12月閣議決定の「新しい経済政策パッケージ」では、名目GDP 600兆円の実現を目指し、少子高齢化という最大の壁に立ち向かうため、生産性革命と人づくり革命を車の両輪として取り組むとの方針が示されているが、付け焼き刃的印象は拭えない。大学の役割や特質を深く考えることなく、また高等教育の現状を正しく把握することなく、経済成長やイノベーションへの貢献という側面だけで、その在り方を論じ、性急に改革を迫る姿勢や方法に強い疑問を抱かざるを得ない。このような政策形成に経済界の声が少なからず影響していることも確かである。2018年6月、経済同友会は「私立大学の撤退・再編に関する意見」を、日本経団連は「今後のわが国の大学改革のあり方に関する提言」を相次いで発表している。後者では、大学教育の質の向上、再編・統合の推進、財務基盤・経営改革の推進の3つの課題が示されており、再編・統合に関して、国立大学の一法人複数大学方式、地域の拠点大学を中心とした国立大学の再編・統合、国公私の枠を超えた運営法人の認可等が提案されている。経済界が大学に関心を持ち、要望や意見を伝えることは重要なことだが、大学改革の歩みや現状を踏まえることなく、組織・制度面での変革を迫る昨今の状況に違和感を抱く大学関係者も少なくない。経済界から大学という一方向ではなく、双方向の対話を通して、相互に問題を共有し合うことに、経済界も大学も共に力を尽くすべきではなかろうか。これらの動きに加え、財務省は財政制度等審議会において、データを示して高等教育の現状や予算配分の問題等を指摘、財政面から強く改革を迫っている。2018年5月の「新たな財政健全化計画等に関する建議」においても、予算の量ではなく、使い方を改善することで、教育の質や研究開発の生産性を向上させることが重要との考えを示し、教育の質の確保と経済的負担の軽減、大学改革に向けた資金配分、国立大学教員の研究環境、大学院改革の4項目について、厳しい注文をつけている。高等教育や大学の在り方は、本来落ち着いた環境で腰を据えて検討することこそ重要と思われるが、それが許されるような状況でないとしたら深刻な問題である。現在、中教審では「我が国の高等教育に関する将来構想について」の諮問を受けて、大学分科会将来構想部会を中心に答申に向けた検討が行われているが、6月に示された中間まとめの冒頭には、Society5.0、第4次産業革命、人生100年時代等、先に挙げた方針や戦略にも登場す政策と現場が分断され、政策の劣化が進む1月26日『高等教育における国立大学の将来像(最終まとめ)』 国立大学協会4月24日提言『未来を先導する私立大学の将来像』 日本私立大学連盟5月17日『教育再生実行本部 第十次提言』 自由民主党教育再生実行本部 5月23日『新たな財政健全化計画等に関する建議』 財政制度等審議会 6月1日『私立大学の撤退・再編に関する意見』 経済同友会 6月13日『人づくり革命 基本構想』 人生100年時代構想会議6月14日『高等教育の負担軽減の具体的方策について(報告)』 高等教育段階における負担軽減方策に関する専門家会議(文部科学省調査研究者協力会議)6月15日『経済財政運営と改革の基本方針2018』 閣議決定6月15日『未来投資戦略2018 − 「Society5.0」「データ駆動型社会」への変革 − 』 閣議決定6月15日『まち・ひと・しごと創生基本方針2018』 閣議決定6月15日『統合イノベーション戦略』 閣議決定6月15日『教育振興基本計画』 閣議決定 ← 3月8日 『第3期教育振興基本計画について(答申)』 中教審6月19日『今後のわが国の大学改革のあり方に関する提言』 日本経団連6月28日『今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ』 中教審大学分科会・将来構想部会合同会議高等教育を巡る直近の動向(2018年1月〜6月)【色分け】 大学団体 自民党 財務省 経済界 内閣 文科省

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