カレッジマネジメント212号
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77リクルート カレッジマネジメント212 / Sep. - Oct. 2018る用語が並ぶ。四六答申として知られる昭和46年中教審答申「今後の学校教育の総合的な拡充整備のための基本的な施策について」は、諮問から答申までに4年の歳月を費やしている。当時も経済界をはじめ多方面から意見が寄せられ、評価についても様々な見方があるようだが、その理念と方向性は今読み返しても説得力がある。官邸や内閣府が主導する政策形成過程の中で、文科省や中教審が独自の方針を示すことに腐心している様子は公開された文書や議事録等からも窺える。しかしながら、このような状況が続けば、高い専門性と客観的な事実に基づく政策立案が軽視され、教育・研究現場で培われた知識や経験を政策に反映することも一層難しくなるように思われる。それによって政策と現場が分断され、政策の劣化も進むことが危惧される。変化の速度が増すほど、迅速な決断が求められ、トップダウンが重視されるのは一面で正しいが、判断には迅速性とともに妥当性も求められる。判断の妥当性を高めるためには正しい情報が上がらなければならない。ボトムアップが重要な所以である。加えてボトムアップの定着により、現場が主体的に考え、決定事項を速やかに実行に移せるようになる。トップダウンとボトムアップの組み合せこそ重要なのだが、近年は国のレベルでも大学においてもトップダウンが強調されがちである。大学の現場で起きている問題は一つひとつが具体的な現実であり、一般解で解決できるものはむしろ少ない。教職員が問題に向き合うゆとりを作り、感度を高め、協働して解決できる能力を身につけることこそ求められているのである。改革は進んでいない訳ではない。現場を丁寧に見れば優れた実践は少なくない。ただ、同じ大学内でも学部・学科間で取り組みに差があり、教員間、職員間でも活動や意識に差がある。優れた実践を学内でどう広げるか、教職員の意識改革を含めて大学改革の難しさはその点にある。トップダウンとボトムアップを組み合わせるガバナンス改革により学長がリーダーシップを発揮しやすい条件は整ってきた。あとはそれを大学全体の改革にどう活かすかである。そのためにも、学長・副学長がこれまで以上に現場に目を向け、現場で生じている問題、教職員の活動や意識、優れた実践を正しく知る必要がある。その上で、教育研究や教職員の働く環境を整えるとともに、優れた実践を称賛し、取り組みが不十分な組織や個人には厳しく改善を促さなければならない。厳しさと温かさの両方で現場に向き合うことこそトップの役割である。国の政策動向を学内に伝え、政策を活用して学内を動かすことも有効な手段であるが、そればかりだと学内で確かな信頼は得られない。学長・副学長は政策の背景や目的を理解するとともに、それに対する自身の考えを持ち、政策をどのように運営に活かせば大学をより良い方向に向かわせることができるか考え、学内の理解を得ながら実際の活動に落とし込んでいかなければならない。その一方で、政策担当者と対話する機会を持ち、大学改革を進める上で真に必要な政策の提言も積極的に行うべきであろう。自校の中で進む具体的な取り組みを示し、成果と課題を明らかにしながら、如何なる支援があれば、その活動レベルを引き上げ、学内に広く展開できるかを説明する。それらは政策立案に資する貴重な材料になるであろう。政策に対して受け身の姿勢に終始することなく、ある時は学内改革に巧みに活用し、ある時は政策形成に積極的に働きかける。学長・副学長がそのような役割を果たすことで、政策と現場を繋げることができる。大学の最大の強みは学生が集まる場という点である。学生がもたらす情報こそ改革を進める上で最良の資源である。どうすれば自ら学び、自らを成長させようとするかは、真摯に学生と接する教職員にしか分からない。学生を基点に、政策を活かし、政策に働きかける。今の大学に必要なのは、このような姿勢ではなかろうか。学生を基点に政策を活かし政策に働きかける

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