カレッジマネジメント213号
33/74

33リクルート カレッジマネジメント213 / Nov. - Dec. 2018えば演劇の授業となれば、経験のない教員から「どうしたらいいか分からない」という反応も出てくるという。そんな教科の専門性を越えた学びについて語り考えるための言葉を共有していく工夫が必要になるというわけだ。そんな共有化の取り組みの一つがICEモデルの導入だ。ICEモデルとは、カナダ・クィーンズ大学のスー・ヤング博士によって開発された、学習方法と一体的に構造化された評価モデルのこと。Ideas(知識)─Connections(つながり)─Extensions(応用)の3つの視点で学びを捉え、学習者が学んだ知識を主体的に展開して深い学びにつなげていくことが想定されている。アクティブラーニングの導入が進むわが国の学校教育でも、広島県教育委員会等が先進的に取り入れてきた経緯がある。酒井教諭は、そんな先進事例に学びながら「探究ナビ」の設計や評価にICEモデルを活用することで、教員同士が学びと評価のあり方を語ることのできる共通基盤にしていきたいと語る(図3参照)。このように見てくると、「新たな学び」の開発・運営は教員にとっても大きな挑戦だと言っていい。「新たな学び」には従前の教育学習からのパラダイムシフトが必要になる。教員には、経験則に頼るのではなく、思考や手法を大胆に転換していく姿勢が求められる。ただ、「探究ナビ」の実践を長く見続けてきた宮田教頭の目には確かな手応えも見え始めているようだ。宮田教頭によると、クラス内で最も優秀だったチームが出場する最終発表会を毎年開催しているが、参観した保護者から、社会で必要になる力が育成されていることを評価する声が聞かれるという。さらに、大学に進学した卒業生らも、「探究ナビ」での学びや経験が大学での学習に役立っていることを報告に来てくれるという。教育センター附属高の試行錯誤は、今後全国で「探究」を学ぶ授業が導入されていくことが予想される中で必ずやモデルやグッドプラクティス(優良事例)になっていくはずだ。「探究ナビ」は新学習指導要領を先取りしてきた側面がある。例えば古典では、「探究ナビ」の演劇の単元で学んだことを活かして実際に生徒に演じさせている。生徒らは自分で演じてみることで、古典のテキストを外側から読んでいるだけでは分からなかった音や感触を登場人物になって感じ取りながら、対象に深く迫っていく経験をさせているという。他の教科で学んだことを教科を越えてどう探究的・応用的に活かしていくのか、そうした視点で捉え直す学びのあり方は、まさに新学習指導要領が謳う「主体的・対話的で深い学び」そのものだ。「探究ナビ」の取り組みも今年で8年目を迎えた。新学習指導要領が始まろうとする中、喜多校長は、これまで教育センター附属高が蓄積してきた知見や経験を総ざらいしながら、中核的な授業として改めて体系化を図っていきたいという。目指すのは、学校が何か新しい取り組みを始めたいと思った時に参照できる実績を持った、文字通りの「ナビゲーション」になり得る学校だ。そうなれば、生徒にとっても意味ある学びを提供できる学校になっているはずだと喜多校長は語る。そこには、「新たな学び」の実現に向けて挑戦し続ける高校の確たる意志を感じることができた。(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構教授)特集未来の学生を育む高校の改革矛盾と葛藤当事者性問う力主体性深い学び対話Extensionsの学びConnectionsの学びIdeasの学びWhat?Why?How?自己理解とメタ認知私の理想と現実「私」について「あなた」について「彼・彼女」について他者理解と共感あなたの理想と現実社会参画と課題解決社会の理想と現実2年生の学び3年生の学び1年生の学び図3 ICEモデルに基づく「探究ナビ」の構造「主体的・対話的な深い学び」のモデルとして

元のページ  ../index.html#33

このブックを見る