カレッジマネジメント213号
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37リクルート カレッジマネジメント213 / Nov. - Dec. 2018藤を活かしたハンドクリームを開発して東京の岡山県アンテナショップで販売する等、具体的な成果につながったものもある。この学習では、1、2年生はポスターセッション、3年生は卒業研究論文とプレゼンテーションによる探究学習発表会を行っており、この発表会は和気町長賞、商工会賞などの表彰を含めて、地域の関係者、保護者も多く来場する大きな学校行事になっている。地域と学校が一体となって、地域課題を通じて生徒を育てることが定着しつつあるのである。そして現在、総合的な学習の時間にとどまらず、各教科の授業でも探究的な内容を取り入れるように教育改革が進められている。例えば、授業を通じて、単に知識を得るだけでなく、他者に説明できるようになることを目標にすることで、生徒はどうすればそれができるのか考えるようになっていく。各教科の専門性を活かしながら、ペーパーテストだけではなく、「プレゼンをもって評価する」パフォーマンス評価を導入すること等が進められている。香山校長は、「総合的な学習の時間でやればいいということでなく、各教科で進めることでその能力の転移ができやすくなる。生徒のコンピテンシーを育てるには総合だけでなく各教科をやらないといけない。教師は教科の専門性を持っているので、教科も探究的にできる」とその意味を話す。これまでの取り組みの成果について、香山校長は、「自分の言葉で話すことができる生徒が増えてきた。偏差値を上げるための知識が増えたということではなく、自分で自分の成長を高め、自己肯定感が高まっている。生徒たちに対する地域の人たちの評価も上がっている。教員は、授業を通して生徒を育てる、ゴールの共有で目線が揃ってきたという感じがある。しかし、教員の負担は増えている。手間がかかることをやってくれている。しかし、それ以上に、教員も生徒の成長を見る楽しみが増えている」という。そして、「この仕組みで全ての子どもたちの自分自身で学ぶ力を高めていきたい。そのことを、ペーパーテストの成績が上がっていくことにつなげたい。目標準拠型で、自主性を高めることにより、基礎・基本の学力につなげていく」と次の目標を位置づけている。「課題に果敢に挑戦する生徒」を大学や社会に評価してほしいとはいえ、和気閑谷高校の取り組みは、これで終わらない。2018年度入試からは、生徒の全国募集も取り入れた。そして、県教育委員会の協力により校内の無線LAN環境を整備したうえで[文科省調査によれば、全国の公立高校の普通教室の無線LAN整備率は22.5%(2018年3月時点)]、2018年度入学生からは、生徒1人ひとりにタブレット端末を持たせ、AIを用いた学習ソフトの活用を進めている。さらに、次の改革として、現在、「スーパー公務員育成プログラム」と「地域デュアルシステムプログラム」の2つの新たなカリキュラムを2019年度入学生から開始するための準備も進められている。前者は、単に公務員試験に合格するだけでなく、探究的な学習をもとに地域の公務員として改革を先導する人材の養成を目指すものである。後者は、学校で学びながら、地域でも学ぶものであり、週5日間のうち1日は学校ではなく地域の事業所で自分が職場にどのように貢献できるのかを学ぶことで、自分に何が必要かを学んでいくとともに、自分に合った仕事・会社を探していくことを想定したものである。既に、地域の商工会に協力の内諾を得ているという。このような改革に対して、香山校長は「カリキュラム・マネジメントをするなかで生起してきた課題に対して手を打ってきた」と話す。そして、「自分で探究できるようになった高校生を大学が引き受けていく。大学には、高校時代に、例えば、英検2級を取ったときに、その結果だけでなく、どういう努力をしたのかというプロセスと、そのプロセスを次の何かに活かすことができるということを、学んだことを転移する力として評価してもらいたい」と高大接続への期待を話すとともに、「5年後、10年後にこの高校で探究の力を身につけた生徒が、自律的に挑戦する人として評価されることを期待したい」とさらに先を見据える。和気閑谷高校の取り組みは、過去10年、大学教育改革として大学が求められてきたことに重なる。生徒が高校で身につけた能力を伸ばすことが大学に求められるとすれば、このような先進的な高校教育を受けた学生をさらに成長させるための準備は大学側にできているだろうか。和気閑谷高校の取り組みは、高校教育改革のモデルであるとともに、大学教育のあり方を問うものである。(白川優治 千葉大学国際教養学部准教授)特集未来の学生を育む高校の改革
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