カレッジマネジメント213号
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47リクルート カレッジマネジメント213 / Nov. - Dec. 2018高等教育の無償化が、にわかに重要な政策として浮上してきた。近年、国政選挙のたびにほとんどの政党が給付型奨学金の創設を公約に掲げてきた。しかし、それが現実味を帯びてきたのは、2017年5月3日に安倍首相が憲法改正案に高等教育の無償化を盛り込むと宣言し、さらに10月総選挙の後、給付型奨学金の大幅拡充を提唱し、12月8日の「新しい経済政策パッケージ」で年額約8000億円といわれる給付型奨学金の創設が閣議決定されたことによる。しかし、ここで注意しなければならないことは、現在進行している高等教育の「無償化」は、一部の無償化でしかないことである。すなわち、完全な「無償化」は全ての者について授業料不徴収や授業料相当額あるいはそれ以上の給付型奨学金支給を指す。しかし、現在提唱されている無償化はいずれも一部の者に対する授業料減免や給付型奨学金にとどまっている。本来の意味の高等教育の無償化については、特に憲法改正に盛り込むかどうか、賛否両論があり、5月3日の首相の提唱にも拘わらず、現在はあまり論議されていない。また、高等教育の無償化として提唱されている自民党の後払い制度(J-HECS)は単なる授業料後払い、一部の者に対する在学中の授業料支払い免除であり、在学中のみの無償化にとどまる。また、財務省は反対の意向であり、実現可能性についても現段階では予見できない。そこで、ここでは、こうした点に留意して、最近の教育の無償化論の提唱の背景を確認し、新たに提案されている給付型奨学金について検討する。その前に、昨年度創設された奨学金制度について概略を述べる。これが新しい制度の基礎となると考えられるからである。従来の日本の公的な学生支援制度は貸与型奨学金のみであり、極めて不十分なものであった。これに対して、2017年度から新しい学生支援制度が2つ創設された。すなわち、給付型奨学金制度と新所得連動型奨学金返還制度(以下、所得連動型と略記)である。この2つは目的も性格も明確に異なり、きちんと区別する必要がある。給付型奨学金の目的は、何より極めて経済的に困難な状況にある世帯の学生の進学を促進することにある。このため、住民税非課税世帯の高等教育進学者に対して月額2万円から4万円を給付する。これまで授業料減免を除けば公的な給付型奨学金がなかった日本で初めての制度の創設である。これに対して、所得連動型の目的は、低所得層だけでなく中所得層も含め、返還の負担を軽減することにある。結果として、そのことが進学を促進し、格差を是正することはあり得る。ただ現在、所得連動型返還は、第1種奨学金のみで従来の定額返還型と選択制と極めて限定されたものとなっている。新制度創設とその背景2040年に向けた将来構想の行方 Vol.2高等教育の無償化論議高等教育の無償化を巡る政策──その背景と課題小林雅之東京大学大学総合教育研究センター教授

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