カレッジマネジメント213号
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48リクルート カレッジマネジメント213 / Nov. - Dec. 2018この2つの新制度の創設の背景として、いくつかの要因があげられる。何より教育格差是正のために貸与型奨学金のみでは不十分であることがあげられる。図1は、2006年から2017年までの5回の調査からみた所得階層別の大学進学率である。最も低所得層と最も高所得層では大学進学率に約2倍の格差があることが確認できる。この教育格差の要因の一つとして、日本では教育費の家族負担が極めて重いことがあげられる。教育は親の責任という考え方による教育費負担の家族主義のため、教育費は親負担が当然とされてきた。子どもの教育費を捻出するために自分達の生活費を切り詰める「無理する家計」が日本の大きな特徴であり、進学率の上昇を支えてきた。しかし、授業料が値上がりを続けたにも拘わらず、家計所得はむしろ低下傾向にあり、その結果、家計の教育費負担はますます重くなり続け、これ以上教育費を家計に依存することは難しい。特に低所得層では家計負担だけでは教育費を捻出するのは限界がある。これまでこうした重い家計の教育費の軽減策として、貸与奨学金や学資ローンがその解決策とされてきた。しかし、貸与奨学金や学資ローンのみでは、ローン負担問題やローン回避問題が発生する。ローン回避とは、低所得層ほどローン負担感が強いため、学生支援の対象となる低所得層がローンを借りない傾向を指し、日本のみならず各国で大きな問題となっている。ローン回避傾向が低所得層で多いことは図2で、低所得層ほど「将来の返済が不安」という回答の割合が高くなっていることにも示されている。このように、貸与奨学金のみでは、教育格差の是正には不十分であることは明らかである。さらに、重要な改革の要因として、1944年の大日本育英会奨学金創設以来70年以上ほとんど改革のなかった日本学生支援機構奨学金制度が、様々な変化に対応しにくくなったことがあげられる。特に、高等教育のマス化によって高等教育進学者が増加し、多くの学生が奨学金を利用するようになった。図3のようにとりわけ所得制限の緩い第二種有利子奨学金が爆発的に拡大し、奨学金の対象が低所得層から中所得層へ拡大するにつれて、奨学金の目的は育英から中所得層の教育費負担の軽減へと変化している。しかし、こうした拡大によって、返還の負担問題とローン回避傾向が発生し、これに対応することが必須の課題となった。返還の負担の背景には、さらに、学卒労働市場の雇用の不安定化があげられる。かつての日本の学卒労働(注)所得分位は、各調査でほぼ5分位になるように設定したため、各調査によって区切り値はやや異なる。(出典)2006年「高校生調査」(学術創成科研(研究代表金子元久)東京大学・大学経営・政策センター)、2012年「高卒者保護者調査」(科研「教育費負担と学生に対する経済的支援のあり方に関する実証研究」研究代表小林雅之)、2013年「高卒者保護者調査」(文部科学省委託事業「高等教育機関への進学時の家計負担に関する調査研究」東京大学)、2016年「高卒保護者調査」(平成28年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業「家庭の経済状況・社会状況に関する実態把握・分析及び学生等への経済的支援の在り方に関する調査研究」東京大学)、2017年「第2世代調査」(科研「経済格差と教育格差の長期的因果関係の解明:親子の追跡データによる分析と国際比較」研究代表赤林英夫)。図 1 5回の調査から見た所得階層別進学率010203040506070802017年2016年2013年2012年2006年54321(%)

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