カレッジマネジメント213号
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56ベトナムの首都ハノイから1時間ほどバスに揺られて西方に向かうと、延々と続く田園の中に国家の肝いりで開発が進められているホアラク・ハイテクパークが見えてくる。そこではベトナムの大手通信企業FPTグループをはじめ、多くの企業のビルの建設が進められつつあるが、その一角にFPTグループが2005年に設立した私立大学「FPT大学」がある。FPT大学では幾何学的なデザインの本部棟が正門の前に構えられており、広大なキャンパスは寮生活を送る学生の活気にあふれている。FPT大学の学生は、大学卒業後の就職活動を見すえながら、その多くが情報学や機械工学、経営管理等を専攻し、同時に日本語や英語をはじめとする外国語を積極的に学んでいるのである。こうした大学の様相は、近年のベトナムにおける高等教育の改革を象徴するものである。1986年にドイモイ(刷新)政策を打ち出して以降、「工業化」と「現代化」を推し進めるベトナムでは、高度職業人材の養成が求められるようになるなか、高等教育は一貫して重視されてきた。とりわけ1990年代半ば以降、ベトナムでは高等教育の量的拡大が図られる過程で、国内外の様々な資源・資本を活用するべく高等教育の市場化と国際化が積極的に進められている。近年の高等教育改革の取り組みからは、ベトナム政府の高等教育改革への並々ならぬ意思や、人々の教育に対する熱意が伝わってくる。ドイモイ体制以前のベトナムの高等教育は、社会の一握りの「エリート」のためのものであり、その目的は国家公務員の養成であった。大学は国家や共産党による厳しい管理と統制のもとに置かれ、入学者選抜から教育の内容、そして卒業後の学生の進路に至るまで国家計画に従わなければならなかった。しかしながら、ドイモイ体制のもとでは、国家の限定的な財源の中で高等教育を丸抱えするのをやめ、公立大学の法人化や運営自主権の拡大、そして民営セクターの導入を積極的に行ってきたのである。こうした緩和政策は、高等教育の量的拡大をもたらした。1986年度と2015年度を比較すれば、おおよその高等教育就学者数は10万人から200万人を超えるまでに拡大している。また、高等教育の就学率に関してベトナムには公式な統計は存在していないが、既存の統計数値を利用することでおおよその進学率が分かる。ベトナムの学制は5-4-3制であり、小学校と中学校が義務教育となっている。2015年度を見てみれば、18歳人口の概算は2003年度の小学校入学者数とほぼ等しく、その人数は160万2556人である。一方、ベトナムの高等教育には在職課程と呼ばれる社会人のためのプログラムがあるが、これを除いた正規課程の高等教育(大学・短大)入学者数は52万9450人であるので、便宜的に計算すると2015年度の高等教育の進学率は33.0%となる。ここからは、現「マス化」する高等教育リクルート カレッジマネジメント213 / Nov. - Dec. 2018ベトナムの高等教育戦略市場化と国際化を推し進める社会主義国関口洋平広島大学 教育開発国際協力研究センター 研究員近田政博神戸大学 大学教育推進機構 教授FPT大学本部棟ハイテクパークの風景10

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