カレッジマネジメント213号
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57在ベトナムの高等教育は「マス化」段階に入っていることがみてとれる。ベトナムにおける高等教育の急激な拡大を支える要因の1つに、1990年代以降設置が進められてきた「非公立大学」と呼ばれる民営セクターの成長がある。1990年代以降ベトナムは、民営セクターの創出をはじめとして、多様なタイプの大学を作り出すことで高等教育の市場への適応や質の向上を図ってきた。とりわけ民営セクターでは、ドイモイが進められる過程で民営大学の多様化が進められてきた。まずは民立大学と呼ばれる、共産党が理事会と関わって大学を監督するいわば「社会主義的私立大学」の設置が進められ、実験的に高等教育の民営化が行われた。その後2005年には私立大学の設置が正式に認可され、現在では私立大学への一元化が進められている。日本の私立大学とは異なり、ベトナムの私立大学の興味深い点は、理事会メンバーが全て株主によって構成されることである。私立大学の株主とは、機関設置に携わった出資者やその関係者を指す。株主総会を通じて機関の発展計画や教育研究の方向性を決定する。当然、私立大学は株式を発行することができ、それを元手に資産運用が可能である。こうしたベトナムの私立大学経営方式は、企業経営ないし運営の論理に明るい株主を擁する点で、資金調達をしやすい。具体的にベトナムの企業が設立した私立大学を挙げれば、冒頭で述べたFPT大学のほかに、紡績系企業によるグエン・タット・タイン大学等がある。こうした私立大学では、多くの教員が非共産党員であるとともに企業での勤務経験を持っており、母体である企業の理念に基づいた教育が行われている。私立大学では、情報学や経営学、それから外国語等のように市場での需要が高い専門科目が多く提供されている。こうした私立大学のあり方は、ベトナムの大学により1990年代後半以降に進められてきた「社会化」と呼ばれる教育財源の多様化を図る政策に基づくものである。「社会化」政策を展開する過程では、高等教育をより魅力的な投資先にするため、営利を目的とした教育機関の運営が認株主が経営する私立大学められるようになった。私立大学は授業料、寄付金のほかに株式からも運営資金を調達できるようになったのである。2000年代以降、私立大学を中心にベトナムでは学生は顧客と認識されるようになり、「商品」としての高等教育のあり方が議論されるようになっている。現在ベトナムでは、高等教育の市場化がより一層進んできている。高等教育の市場化は、私立大学のみならず公立大学の管理運営のあり方にも変化を生じさせてきた。公立大学に対しても運営自主権を与えていくことで、より主体的・能動的に市場に適応するとともに、質の高い教育を提供することが目指されるようになっている。こうした大学の運営自主権を高めていくという方針のもと、大学はより自主的な運営が可能になるとともに、学生の学びも変化してきているのである。まず入学者選抜試験を見てみよう。ドイモイ体制以前では、試験の方法や、採点・合格者の決定、そして大学ごとの募集定員数の策定も国家が行っていた。しかし、ドイモイが進む過程では、一部の学部や私立大学等で入試の方法を大学が独自に決めることができるようになったり、大学が一定程度募集定員を計画・策定できるようになったりしている。また近年では、採点後の合格者の最低点数を大学が独自に決められるようになっている。より多くの学生を集めたいという大学側の思惑から、最低合格点数を極めて低く設定する大学が続出しており、学生の質の保証がベトナム社会や教育訓練省によって問題視されているのである。また、学生の就職活動をみてみれば、1990年にベトナムでは国家計画に基づく卒業生の職業分配制度が廃止され、これ以降学生は自ら就職活動を行わざるをえなくなった。現在ベトナムでは、大学には「市場で売れる」人材を養成すること、学生には市場に適応することが求められるようになっている。現時点では、多くの学生は卒業後に始まる就職活動に当たってSNS等のインターネット上の求人サイトを参考にしている。こうした状況から教育訓練省は、2018年より高等教育の質保証の一環として各大学に卒業生の就職率の開示を義務づけており、開示をしない大学には学生募集にあた就職率開示の義務化リクルート カレッジマネジメント213 / Nov. - Dec. 2018
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