カレッジマネジメント213号
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59リクルート カレッジマネジメント213 / Nov. - Dec. 2018の特色である。具体的に修士課程の「ナノテクノロジー」プログラムを見てみれば、表1のようになっている。日越大学の学生は、共通科目でサステナビリティ学をはじめ、文理融合的な視点から先端的な学問体系を学ぶとともに、それぞれの専門分野を修めることを目指している。同時にまた、日本での就職を視野に入れて日本語教育では、「会食時・車両に乗るときの席次」や「仕事を行う際の時間感覚」といったビジネスマナーの講座も実施されている。2018年7月には、日越大学では第一期生の56名が修士課程を修了し、卒業生の多くはベトナム系企業や日系の企業に就職している。なかには、日本の大学の博士後期課程に進学する学生もいる。日越大学の修了生は、日越関係の架け橋として産業界・学術界で活躍することが期待されている。日越大学は学士課程や博士課程など順次開設する予定であり、将来的には5000人規模の総合大学を目指している。学士課程では教養教育(いわゆるリベラル・アーツ)を重視する予定であるという。日越大学は伝統的に専門科目の学習が重視されてきたベトナム高等教育のあり方に対して風穴を開ける可能性を持っている。以上のように、ベトナムは市場を「てこ」にして抜本的な高等教育の改革を行ってきた。近年では私立大学のみならず、公立大学も「市場で売れる」人材をどれだけ輩出しているかが高等教育の成果の指標になりつつある。企業によって運営される私立大学では、設立母体の企業理念のもとで教育を行っている。教員の中には実務家高等教育の質をどう高めるかや企業勤務経験者が多く存在している。公立大学では市場で需要のある特定の専門分野が増設傾向にある。こうした状況のもとで、実務家や民間企業出身者を増やせば高等教育の質は高まるのか、大学は市場が求める人材を養成するだけで良いのかという問いが浮かび上がる。こうした課題はベトナムの私立大学経営陣の認識するところとなっている。FPTグループでは、教員の専門性を高める研究活動を奨励する取り組みを実施している。例えばグループ傘下のFPT国際学院では、教員の研究活動を奨励するため、ISI等の著名な学術誌に論文が掲載された場合に、論文1本につき5000米ドルを教員に給付している。またFPT大学では、教員の研究活動が奨励されているのに加えて、教員に高次の学位を取得することを求めている。設立に当たりFPTグループの会長が傘下の日本語教育センターの教員を大学教員として採用したこともあり、修士号や博士号を持たずに教壇に立つ教員は少なくない。学士号しか持たない教員は、本務校での教育に従事するかたわら、ほかの大学の修士課程や博士課程に在籍し、学位論文の作成に取り組んでいる。大学教員として昇進するためには、修士号は最低条件であり、威信の高い大学ではさらに博士号を要求される。このため、若手の大学教員は多くの授業を抱えながら、自身の学位論文作成、研究活動、家庭生活とのバランスに苦心している。さらに近年では本務校で認証評価の作業等も課されるため、ベトナムの大学教員の日常は、以前と比較してかなり多忙になりつつある。「あれもこれも」求められるという点では、日本の大学教員と似た状況にあると言えるかもしれない。高等教育の市場化や国際化を進めていくなかで、いかにしてその質を担保し、向上させるか、これこそが今日のベトナムが直面する課題である。(出典)日越大学「ナノテクノロジー」カリキュラムより関口作成。共通科目(20単位)哲学(4単位)、日本語(6単位)、英語(4単位):ハノイ国家大学提供サステナビリティ学基礎論(3単位)、サステナビリティ学方法論・情報論(3単位):日越大学提供基礎・専門科目(23単位)ナノメカニクス(2単位)、バイオケミカル・エンジニアリング(2単位)等インターンシップ(6単位)修士論文(15単位)表1 日越大学における「ナノテクノロジー」プログラム

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