カレッジマネジメント213号
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62リクルート カレッジマネジメント213 / Nov. - Dec. 2018IT強化の一環として、7月には、公立はこだて未来大学との学術交流協定に調印した。公立はこだて未来大学はシステム情報科学部のみの単科大学だが、特色の一つに「社会をデザインする大学」を謳う。「実は2校の連携は、ずっと模索してきました。距離がありますが、遠隔講義のシステムをうまく使って、両方で教育を受けられる形を作っていきたいと思っています」(中島学長)。公立はこだて未来大学との連携で中島学長がもう一つ目論むのが、コンピュテーショナル・シンキング(計算論的思考)という教育科目を作ることだ。「当面、ここの大学にはそういう教育をする人材がいないが、公立はこだて未来大学にやってもらえばできるかもしれません」。「今後の世の中、どの分野の人もITのリテラシーを持たないと、困ります」と中島学長は言い、こう続ける。「リテラシーとは、使うという意味だけではなくて、情報を処理するとはどういうことかの感覚。コンピュテーショナル・シンキングも、プログラムの読み書き技術ではなく、プログラムを書けるような基礎的考え方のことです」。よく言われる「論理的思考」が思い浮かぶが、コンピュテーショナル・シンキングはそれとは異なる。今まで論理的思考の重要性は言われてきたが、具体的な手順を考える力も、世の中で役立つ場面は多いのではないかと中島学長は言う。「例えば、ホ公立はこだて未来大学との連携、コンピュテーショナル・シンキングテルの朝食でブッフェ形式に並びますよね。あれは壮大な無駄だと思います。コンピュータの世界でいうと、シーケンシャルアクセスです。ランダムアクセスの方が効率的なのは当然で、前の人が取ろうとしているものが自分はいらないというときは追い越せばいい。あるいはそもそも並ばなくていい。こんなふうに、日常生活に役に立つ場面もたくさんあると思う」。コンピュテーショナル・シンキングを教える科目は、日本ではまだない。授業開発とともに、書籍にまとめる等して普及させていきたいという。札幌市立大学の今後の展望として、長期的には「アジャイル型教育」の方向に行きたい考えがあるという。「『学ぶと働くをつなぐ』ということに関しては、今完全にウォーターフォールですね。教育が終わったら実務に就くだけの単調な流れです。それをアジャイル型にして、短期間に何度でも大学と社会との間を行き来するのがいいと思います」(中島学長)。社会人の学び直し「リカレント教育」は近年、よく話題になるが、中島学長の「アジャイル型教育」は、「もっとループが早いし、何度も回る」イメージだ。アジャイルとは、システム開発の用語で、ウォーターフォールとよく対比される。ウォーターフォールは、計画から最終工程まで順を追って進み、並行作業や後戻りはしない。アジャイル開発は、開発対象を短期間で完成可能な小さな単位に分け、その単アジャイル型教育を構想する位ごとに計画→設計→作成を行い、完成したら次の単位の「計画」に戻り、同時に開発全体も見直す。修正の手間が最小限で済み、状況の変化に対応しやすいメリットがある。ウォーターフォール型の教育は、大学で身につけた知識が社会で「一生持つ」ことを前提としているが、AIやITの発達に伴い、その前提は崩れると中島学長は言う。「10年で専門知識が古くなるとすると、10年に1回は大学に戻ってくるという状況を作りたい。そう思っていたら、似たようなケースが看護分野にはあるのです。看護師さんが看護部長とかになる前に大学に戻って学ぶシステムが。お手本にしたいと思っています」。札幌市立大学は認定看護管理者教育機関(サードレベル)(公益社団法人日本看護協会)の指定教育機関になっている。実務経験が通算 5年以上等いくつかの条件を満たした看護師が受講でき、2018年度は18名が受講している。「アジャイルの延長線上で、大学に入学とか卒業という概念はなくしていいとも考えられます。働きながら、『この知識が必要になったから、ちょっと大学で勉強してくるわ』みたいに、取りたい講義だけ取っていく。それで10年くらいすると博士号が取れたとか」。これは夢物語ですが、と言いつつ、そのくらいの遠い未来を構想することが教育には必要だという思いも、中島学長にはある。(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)

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