カレッジマネジメント213号
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68リクルート カレッジマネジメント213 / Nov. - Dec. 2018 なお、単にデジタル技術だけを導入しても、業務全体への効果は薄いと考えている。新たなデジタル技術に加え、これまでのシステムや、人が介在するプロセス、この三つを業務プロセス全体にどのように組込み、どう変えていくかが重要である。プロセス全体の見直しによって、それに携わる一人ひとりの働き方が効率的になり、生産性が上がっていく。また、それによって、資源を成長分野やお客様サービスにシフトすることができると考えており、そのような点も念頭に置いて、会社全体の効率性、生産性を上げていきたい。引用が長くなったが、RPA導入の本質が語られている。ここで前述のセミナーで報告された早稲田大学の導入事例について、その要点を紹介したい。同大学は、2011年より業務構造改革に取り組んでおり、これまでに、専任職員、嘱託職員、派遣社員、業務委託の業務・役割・専門性の再定義、共通業務の集中化及び既存組織の再編成等を進めている。その中で、約130カ所で分散処理していた支払請求伝票の入力処理工程を段階的に集中化する一方で、ERPを基盤とする新たな研究支援・財務システムを開発。2018年4月稼働に向けて、処理方法や業務実施体制等の見直しを進めていたが、大きな効果が見込める単純業務の集中化は一巡したものの、分散化した事務所で一人分に満たない事務処理を集中化しても、要員の再配置に繋がらず、却ってコスト増をもたらすとの問題に直面。打開策としてRPA導入を検討することになった。トライアルの結果、年間約22万件にのぼる支払請求入力用紙の内容チェックとシステム登録にRPAを導入することで、約30%の業務削減効果が見込めることが分かり、適用領域の拡大を目指して全学展開を進めることになったという。その推進役として情報企画部と人事部を兼務する伊藤達哉担当部長は、「業務効率化やコスト削減にとどまらず、現行業務の目的や手順を再検討し、RPAに委ねる処理を考え、空いた時間で手をつけられなかった業務に着手すトライアルを経て全学展開を進める早稲田大学る。ワークライフバランスの改善にも繋がる」と期待を寄せる。RPAを適用することで効果が見込める業務は、定型的であり、繰り返され、一定の処理量があるものとされている。早稲田大学のような大規模大学に対して、中小規模の大学の場合、処理量という点で条件面の厳しさがあるかもしれない。しかしながら、人件費増を抑えつつ業務の高度化・多様化に対処するという課題は、規模の大小や設置形態を問わず、全ての大学に共通である。生産性向上はもとより、成長を促す働き甲斐のある職場、働きやすい職場を作り上げるためにもITの高度活用を含む業務改革は不可欠である。RPAはそのための有力な手段の一つになり得ると思われる。大学の職員組織やそれが担う業務は現在も「事務」と呼ばれることが多い。職場を見てもPCに向かっての仕事が圧倒的に多い。そのこと自体が問題ではないが、学生に接する時間、新たな企画や問題解決のために話し合う時間、高校・企業・地域など学外に出向く時間を、これまで以上に生み出していかなければならない。PCに向かう姿だけでは、仕事の内容も方法も本人以外は分からない。処理の正確さや速さの個人差は決して小さくはないはずであるが、それを評価したり、職場内で教え合ったりすることは現状のままでは期待し難い。RPA導入に当たっては、業務の棚卸しを通して、自動化対象とする業務を洗い出し、As-Is (現状)フローを整理した上で、To-Be (あるべき)フローを描き、RPA適用部分を明確化しなければならない。この際に、既存の業務を所与のものとするのではなく、目的に立ち返ってその必要性を問い直し、必要性が低ければ業務自体をやめることも重要である。本来不必要な業務がソフトロボへの置き換えにより固定化されることは避けなければならない。この「業務の可視化」は業務改革における最大の課題であり、ITベンダーやコンサルティングを活用したとしても、業務担当者が当事者意識を持って能動的に関わらない限「業務の可視化」は業務改革における最大の課題

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