カレッジマネジメント213号
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この連載「今こそ読むこの1冊」の第1回目は2003年5月だったという。それから数えると、実に15年間にわたって書き続けてきたことになる。この間に数多くの読者の皆さんからは、ある時は励ましの言葉を、ある時は叱責の言葉を賜ってきた。この場を借りて御礼とお詫びを申し上げたい。15年前といえば、筆者はまだ60歳代であった。その当時はまだ体力・気力とも充実し、もりもり仕事ができた。人生100歳時代とはいうが、この私なる個人の寿命がいつまであるのか、誰にもわからない。さすがにここ数年間は体力・気力の衰えを感じ始め、いずれは引き際を考える時期が近づいていることが予感できた。その上に今年の酷暑である。この例外的な酷暑に見舞われ、残念ながらついにダウンしてしまった。その結果、体力・気力のみならず、視力が低下し、パソコンの画面を読むのがきつくなった。さらに言えば知力の低下も著しく、記憶力がとみに衰えた。そこで編集部にわがままを言って、引退させていただくこととなった。振り返ってみると、最初の頃はいろいろ野心的なことを考えていた。筆者が一方的に書き発表するだけでなく、読者にも積極的に参加してもらうため、読者からの反応を受け止める投書欄をインターネット上に用意したりした。例えば5回目のステファン・ディルセーの『大学史』を取り上げた時は、あえて読者に向かって、自分の大学図書館にこの本が所蔵されているかどうか確かめて欲しいとお願いをした。この本はディルセーという、きわめて特異な研究者が生涯をかけてまとめ上げた本である。後世に伝えられた話によると、彼は多数の図書をトランクに詰め、旅から旅へ、世界各地の古文書館を歴訪し、新たな資料の発掘を目指したという。その文献探索の幅の広さは、その引用文献を見れば、一目瞭然としていた。彼はついに大学には正式には所属せず、生涯を旅の中に過ごした。だから一時期彼を超える大学史研究者は現れまいとも言われた。その貴重な書籍を故池端次郎教授が翻訳され、刊行された。特異な書籍のため、それほど多くは印刷されなかった。どのくらいの大学図書館が所蔵しているのか、その一端が分かればと思った。この著者の呼びかけに幾人かの読者が応じてくださった。このように当時の著者は、新しいタイプの出版の在り方を密かに狙っていた。それは活字文化とサイバー出版との融合と言ってもよい。それは活字出版の安定性と、サイバー出版の機動性を兼ね備えたハイブリッド出版とでもいうべき出版形式である。サイバー出版は基礎的な技法を習得しさえすれば誰でもが出版可能な、それだけ機動性に富んだ出版形式である。しかし注意しないと、サイバースペースの暗黒空間に飲み込まれ、永遠に放浪生活に陥る危険性がある。事実、筆者のいくつかの論文は今では飲み込まれたまま、行方不明のままである。その理由はushiogi.comなるドメイン名の使用料を支払うのを怠ったため、そのホーム画面が消去されたためである。その点、リクルート社という確たる巨大組織に裏打ちされたカレッジマネジメント誌は、安定した場をサイバー空間に確保しているが、私個人の私設印刷所兼出版社は雲散霧消してしまった。可哀そうな孤児たちである。このように、インターネット時代の幕開けとともに、いくつかの新たな可能性が開けてきたが、安定性・永続性の面ではまだ難がある。過去15年間は私にとっては実験の段階であり、新たな可能性の実験期間でもあった。誌面を使って、私のささやかな実験の場を提供してくださったリクルート社、カレッジマネジメント誌に感謝したい。長くお付き合いくださった読者の皆さんにも御礼を申し上げたい。読者の皆さんへ潮木守一名古屋大学・桜美林大学名誉教授連載第1回記事

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