カレッジマネジメント214号
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11リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019する場合、その人数分だけ出願書類を複写する必要があるとしたら、さらに事務的な複雑さとコストが増すだろう。ここでは書類審査の電子化のメリットとして以下の3点を挙げる 。1点目は、受験者が入力した情報を採点者に迅速に割り振ることが可能となり、各書類への受験番号の印字や関連資料の整理といった事前の事務作業が不要となる。これにより、評価期間の短縮が図られる。2点目は、採点者の評価作業負担の軽減である。具体的には、申請情報の効率的かつ効果的な画面表示、採点結果や入力済みのコメント等の抽出、並び替えなど、システム制御により採点作業が格段に効率化される。また、各採点者の評価作業をマネジメントする評価責任者の立場においては、各採点者の採点状況をリアルタイムで把握しやすくなり、評価作業全体の効率化に寄与する。3点目は、受験者がアピールできる素材の広がりである。従来の書類審査であれば、紙ベースの資料を提出する必要があるため、枚数制限等により、詳細な情報の提出は難しかった。しかし、申請情報が電子化されることにより、ドキュメントだけでなく、写真・動画・音声等のメディア、e-ポートフォリオなどに蓄積した情報を申請する材料として活用することができる。受験者を評価する大学にとっても、従来以上の情報を得られることになり、豊富な情報をもとに丁寧な評価をしたいと考える募集区分にとっては有効な仕組みとなりうる。面接試験等他の評価方法と連動すれば、より掘り下げた評価が可能となるだろう。筆者の所属大学では、評価支援システム(J-Bridge System)を民間の教育機関と共同で開発し※2、2019年度一般入試から本システムによる書類審査を実施する予定である。政策的な推進もあり、多くの大学で多面的・総合的評価の導入が進むことが考えられるが、その次にあるのは間違いなく「導入の効果検証」であろう。大学入試の効果検証と言えば、「APに沿った学生が獲得できているか」という観点で検証されるのが一般的である。しかし、多面的・総合的な評価を伴う入試制度の効果検証におい多面的・総合的評価がもたらす効果の検証:教育の質保証と一体的にて、追跡調査の技術が不十分である場合には、意図せぬ結果をもたらしてしまう。例えば、主体性等を重視して評価する手法を導入しているにも関わらず、入学後のパフォーマンスを測る成果指標が学業成績(GPAや取得単位数)のみであれば、その効果を検証しているとは言い難い。主体性等を重視した評価であるならば、その特性が入学後に生かされているかどうかを見るべきであろう。これまでも入学後のパフォーマンスを測る成果指標が不十分であったり、検証の技術が未熟であるために、新たな入試制度を導入しても、その存在意義を示すことができずに廃止になった制度は少なくない。多面的・総合的評価の導入を進めるのであれば、こうした効果検証の技術的な確立も同時に進めていくべきであろう。それでは、どのような成果指標を設定すれば良いのだろうか。筆者は、「学修成果の可視化」の議論とセットで検討することが1つの在り方だと考える。「学修成果の可視化」は、現在中教審でも議論されているところであり、「学生が何を学び、何を身につけたのか」を示すために、多角的な指標が想定されている。これらの指標は、ディプロマ・ポリシーの達成状況を示すものであるとはいえ、教育カリキュラムとも合わせて検証されるものであり、APとも密に関わる。つまり、3ポリシーの体系の中で、適切なPDCAサイクルによる教学マネジメントが機能することで、一面的になりがちだった入試制度の検証の視点が充実することが期待される。高大接続改革の理念は、入試改革に留まらない大学と高校の教育改革の実現であり、多面的・総合的評価を伴う入試制度の導入は改革の一面に過ぎない。入試改革の真価が問われるのは、教学マネジメントの中で検証・改善が実施され、大学教育に進化がもたらされたときであろう。これらの視点に立ち、改めて自大学のアドミッション・ポリシーを見直したときに何か発見はあるだろうか。何か気づく点があるとすれば、そこに入試改革がもたらす効果のヒントが隠されているかもしれない。※1略記部分は、筆者が加筆。※2本システムは、多くの大学で利用できる一般的な機能を目指し、九州地区の国立大学のアドミッション部門の関係者と意見交換をしながら、システムの機能を検討した。特集 入学者選抜 改革の現状
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