カレッジマネジメント214号
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17リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019特集 入学者選抜 改革の現状比率の向上を図るという方針を固めました。志望度合いの高いAO・推薦入試枠を拡大させながら、一般入試型で高学力層に注目してもらうための仕組みも整備するために、本学でどんな学生が伸びやすいか、というデータを徹底的に分析しました」。2019年度は大幅な入試改革を行っているが、特に①全学統一入試を実施せず、一般入試中期導入②センター利用入試前期5教科基準点型を全学科導入③センター利用入試後期3教科グループディスカッション型導入④原子力人材入試新規実施の4点は特徴的だ。まず①である。全学統一入試を実施している大学は多いが、概ね受験生の受験機会拡大に寄与する意味合いが強い。廃止とは随分思い切ったように感じたが、菅沼部長は趣旨をこう話す。「本学の統一入試は2月1日に実施していました。一方で2〜4日の一般入試前期日程は、昨年から概ね全学科で試験日自由選択型を導入。3日間の中で併願プランが充実したことで統一入試が受験生にもたらすメリットは、かなり薄まりました」。一方で、定員抑制等の問題に際し、従来の都市大の一般入試は2月初旬の前期と下旬の後期のため、入学者数コントロールの機会が限られていた。そうした状況を緩和すべく、一般で中期日程を設ける必要もあったそうだ。が、そのために作問負荷は増やせない。ならば前期4日程のうちの1日を中期に移動するという構想に落ち着いた。②は学科ごと規定の点数を超えると合格というタイプの入試。その狙いは何か。「学生の成長をデータで追い、本学の教育で伸びやすい属性を調査した結果、入学前から学習習慣のある学生が伸びているというファクトがありました。学力の3要素とともに学習習慣を見極める施策を開発していきたいと考えてきたうちの一つの方策がこの基準点型という入試です」(菅沼部長)。基礎学力があるに越したことはないが、それよりむしろ、勉強の習慣がついている学生が入学後に著しく成長する。「本学は社会課題解決を工学等の専門性で担う大学で、必要なのは問い続け、考え抜く力。実践的な専門性は自律的な思考力に裏打ちされるのです」。課題を前にして怯まず、問い掛け続けられる知的体力。それを培ってきた学習習慣を重視したいとの考えが②の設計に活かされた。合格基準点は各学科教育にスムーズに取り組めるボーダーライン。ある程度学習習慣がついていなければ取れる点数ではないという。③は基礎学力評価であるセンター利用入試に、学力の3要素を追加した評価方法。④は、原子力安全工学科のPR的な意味合いが強い入試だ。「本学が伝統的に研究を深めてきた分野なのですが、学科の魅力を上手く伝えきれていないのが課題です。また、原子力分野に対する教育的な意味も込めて、提出させる課題レポートのための参考文献等の情報を提供しています」。入試は受験生へのメッセージ。受験生から選ばれるためには入試を使った情報発信が有効であるという。「来る2021年度の大きな変化に対し、2020年度の過去問題で受験生が対応できるよう、段階的に改革を進める必要があります」と菅沼部長は言う。徐々に改革を進めるのは、データに裏打ちされた学内事情を新しい視界に合わせてチューニングしつつ、受験生利益も考えてのことなのである。高大接続改革は入試改革に非ず、教育改革であると言われて久しい。大学にとってその根幹にあるのは3つのポリシーである。学校教育法施行規則「第165条の2」でポリシー策定が義務化されているが、その内容については未だ大学差が大きい。中でもAPは、「教育理念、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーに基づく教育内容等を踏まえ、どのように入学者を受け入れるかを定める基本的な方針であり、受け入れる学生に求める学習成果を示すもの」(文部科学省ガイドライン)であるという。1999 年の中教審「初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申)」で登場して以来なかなか実質化が進まないと言われるAPだが、教育内容の精査がAPの明確化につながり、それがカレッジ・レディネスへの翻訳を経て入試制度の評価手法に整理される。起点となるべき大学教育が学力の3要素を育成するものにならなければ、入試を変えても画餅であろう。入試を皮切りにした大学教育の質保証という最大の難問に、各大学がどのように挑むのか。引き続き注目したい。入試でAPを実質化する

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