カレッジマネジメント214号
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25リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019て解答する形式の「学部独自試験」を課すこととした。「学部独自問題」は2018年8月にサンプル問題が公開されている。この変更は、大学入学共通テストにおいて一定の選抜機能が働くことを前提に、さらに学部として必要な能力は独自試験で見るという試験内容の組み合わせであるという。この改革には、政治経済学部がこれまで、世界各地から多様な学生を集めるためのグローバル入試や英語による教育プログラムなどに積極的に取り組み、その結果国際的に優秀な学生が入ってくる教育環境になってきたことが背景にある。そうした外国人学生と対等に渡り合える日本人の学生集団を形成していくことが求められており、旧来の学力だけではない多様な能力を問う入試制度に改革していくことで新たな学生集団の形成を促進しようとする意図があるという。教育改革によって生じた学生集団の変化が、入試の見直しにつながっているのである。入学者に、その学部で学ぶために必要となる能力が備わっているかを見るために入試内容を変更することは、「大学入学共通テスト」を用いることとしている国際教養学部・スポーツ科学部も同じである。国際教養学部は「英語」の学部独自問題を、スポーツ科学部は「小論文」の学部独自問題を課すこと、大学入学共通テストで求める科目は学部により異なることが公表されている。このように改革の背景を見ていくと、早稲田の入試改革は、ただ入試内容の変更にとどまらず、高大接続改革の根本となる教育改革と連動していることが分かる。Waseda Vision 150のもとで、大学全体のグローバル化を進め、研究大学としての発展を志向するなかで、従来とは異なる基準による選抜が必要となっているからこそ、大胆な入試改革を進めているのである。もちろん、将来を見据えた改革だけでなく、目の前の課題解決のための改革も並行して進められてきた。例えば、現在、入学者の7割は首都圏(1都3県)出身者で占められており、伝統的な早稲田のイメージ・特徴(=「早稲田らしさ」)である「地方出身者」「多様性」は危機的な状況にあるという。地方から出て、一度、東京で学ぶことを提案する「新思考入試(地域連携型)」は、この課題に取り組もうとしたものである。早稲田らしさを担保する多様性の確保他方、「私大の特性として、8割の学生は学部卒業後に就職します。そのための教育として、社会に出た時に必要な能力を、授業内外でどのように提供していくかも合わせて考える必要があります」と沖教授は話す。そこには、授業科目だけでなく、リーダーシップ教育、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)でのボランティア活動や社会的活動等を通じた教育プログラム、ピアチューターといった諸活動に学生をどのようにつなげていくかという課題が意識されている。どのような学生にどのような教育プログラムを提供することが社会に対して効果的なのか。さらに、「一般入試をゴールとして燃え尽きてしまい、入学後の教育にうまく接続できない学生もいます。何を経験してきた、どのような属性の学生なのかが早くにつかめれば、大学としても早めに学生支援の対策を取ることができるでしょう」とも話す。このことは、大学が生徒の多面的な情報を早く受け取ることが学生支援においても教育設計においても重要であり、調査書をはじめとする書類等の記載内容の正確性も含め、これまでとは異なる接続のあり方が必要となっていることを示している。学力以外の要素をどのように求め、大学がどのように活用していくのか。入試改革はここにつながっている。このように大きな変更が進められている早稲田の入試改革について、沖教授は「新学習指導要領や調査書電子化等のマイルストーンとなる2025年に向けて、入試のあり方は継続的に検討していかなければならない。その意味では今の改革は通過点でしかありません」としつつ、「入試のことはきちんと社会に説明する責任があります」と話す。日本有数の伝統ある大規模総合大学として、あるいは研究大学として、グローバルな大学間競争や環境変化に対応するために進取の精神で教育改革・入試改革に挑んでいくとともに、早稲田の入試のあり方が高等教育全体や高校教育に与える影響に対する社会的責任が意識されている。早稲田が今後どのように改革を進め、それを社会はどのように受け止め、受験生はどのように動くのか。この先の動向から目が離せない。(白川優治 千葉大学国際教養学部准教授)特集 入学者選抜 改革の現状※肩書きは取材(2018年10月)時点のもの

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