カレッジマネジメント214号
29/56

29リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019なるような形でほかの学生の意欲を上げていくことで改革が可能なのでは、と考えた。習熟度別クラスの導入、総合型選抜で入った学生に対するチューター制度を作り、教員が1対1で学習計画を指導する等の取り組みも行う予定である。カリキュラム全体を一度に改革するのではなく、良い学生が入学することで、受け皿としての教育内容が改善されることを期待しているという。経済学部では近年重視されるようになったデータ分析、金融の分野に関して新しい教員を配置し、実習科目でプログラミング教育を強化する予定にしている。教員が定年退職するときは十分に時間を割いて次の人事を学部・学科で議論して、社会変動のなかでのカリキュラム構想を見ながら、適切な分野での教員採用を考えている。いずれの学部でも、今回の入試改革について、学部内で検討委員会を作り議論をして、最終的には教授会で決定している。入試改革や教育改革に関するインタビューにも拘わらず、トップマネジメントの関与の話題がほとんど上がらないのが印象的であった。西南では、ボトムアップの文化があり、入試だけでなく、PDCAも学部ごとに行っているという。全学の入試を検討する組織として、全学入試委員会があり、全学共通の一般入試はこの委員会が責任母体で、入試センター長が委員長を務め、各学部長、大学事務長、入試部事務部長、入試課長がメンバーであり、基本的にはこの委員会組織に全裁量が与えられている。それに対して、秋に実施される入試は各学部の裁量で運営されている。かつては入試の種類が少なく全学統一で全て行っていたが、20年くらい前から各学部が秋の入試で独自の取り組みを始めるようになった。それに対して全学部門や他学部から横やりが入ることもないし、運用上の問題が生じない限り、学部の独自性は最大限に尊重されている。ボトムアップ型の改革は、学部での意識共有がうまく進めば、改革の実現に非常に有効だが、改革スピードが遅くなりがちな欠点もあり、一長一短である。ボトムアップで分散型の西南は、普段は改革スピードが遅くなりがちだが、入試についてはスピーディーに動いたという。それだけの危機学部でのボトムアップの改革文化感が学部内に共有されていたためだと考えられる。それを支えた一つの要因がデータ分析とその結果の適切な共有であるように思われる。藤本教授も「西南の強みは事務局。例えば、国際交流も数多くの協力大学との交流事業を職員主導で運営している。職員にも卒業生が多く、高い専門的知識・技術を持ち、愛校心が強く、自分達の手でマネジメントをしている自負を感じる」と話す。改革の議論を支えるデータ、例えば入試形態別の追跡調査等は入試課で実施し、学部に共有してきた。入学時と卒業時のアンケートも長い歴史があるという。これまでは各部署でそれぞれ必要なデータを集めて分析し、必要に応じて学部と共有してきたが、今後はより体系的に行い、教育の中身にIRをいかしていくために、IR組織の設置を検討している。入試制度の企画だけでなく、その実施も各学部で推進していく。経済学部は入試委員会を作り総合型選抜を運営する。文学部も学部改組に伴い、文学部入試委員会を作った。入試制度が決まったから解散というわけにはいかず、学部統一の総合型選抜の実施を支える常設委員会として運営されていく。また、商学部では、入試制度検討委員会を設け、高校の成績、入試の成績、大学時代の成績、就職等のデータを分析して、それらが連動しあっていることを最近の学内の研修会で発表しており、面白いと話題になった。取材時点では出願が始まっていなかったため、出願状況や試験をしてみた感触等はうかがえなかったが、今後の課題を尋ねてみた。総合型選抜では手間をかけて実施するため、増える教員の負担をいかに効率化するのかが大きな課題である。面接は時間もかかることや、教員は研究者であって面接の専門家ではない等の事実を踏まえてどのように効率化できるかが同校でも課題だという。また、良い学生がどういう経路で入ってきているのかに関する分析をさらに進める。推薦入試で入る学生は早めに入学が決定する点を生かして入学前教育に力を入れていく構想もある。新しい入試がどう機能するのか、取り組みを通じてどのように教育改革を実現していくのか、非常に楽しみである。今後の課題と展望(両角 亜希子 東京大学大学院教育学研究科准教授)特集 入学者選抜 改革の現状

元のページ  ../index.html#29

このブックを見る