カレッジマネジメント214号
39/56

39ること、ひいては社会への大卒者供給を増加させて豪州経済を活性化することを目指すものだった。1990年代以降も、連邦政府によって改革を志向する多くの政策立案や法整備が進められてきたが(DET 2015)、これら一連の高等教育改革は、次の2つの点から見て一定の成功を収めてきたと言っていい。第一に、高等教育の量的拡大が図られたことである。戦後ほぼ一貫して、高等教育機関の在籍者数は基本的に右肩上がりで増加を続け、2016年には国内学生・留学生合わせて約148万人に上っている(図表1)。近年は国際的に熾烈を極める留学生獲得競争において、豪州の大学は、中国・インド・ネパールといったアジア地域から留学生を惹きつけることに成功するとともに、アジアにおける分校設置や海外機関との提携を通して高等教育のオフショア展開も積極的に推進してきた。その結果、2017年時点で留学生数は約43万人(うち約12万人が豪州外のオフショアで学ぶ留学生)で、学生全体の約4分の1強を留学生が占める計算になる(DET 2018b)。さらに、国内学生に限ってみれば、19歳時点の高等教育就学率(2016年)は1980年代末から倍加して41%に達する等、高等教育機会は着実に拡大してきた(Norton & Cherastidtham 2018: 22)。第二に、そうした高等教育の規模拡大(マス化)が多様化をもたらしていることである。豪州には2018年現在、高等教育レベルのプログラムを提供する教育機関として、「大学」が42校、「非大学型高等教育機関」が127校存在する。前者のほとんどが州立大学(公立大学)であるのに対し、後者は営利団体を含む私立機関等の多様な機関から成り、その多くは自律的な学位授与権を有していない。そこには、例えば(日本の専修学校に近い)技術継続教育機関であるTテイフAFE(Technical and Further Education)が含まれており、とりわけ近年ビクトリア州所在のTAFEは、大学で提供されないニッチ分野において高等教育プログラムを開発・提供するといった新たな動きを見せ始めている。さらに、同じくビクトリア州を中心に、同一機関内で大学教育と職業教育訓練を提供する二元制大学(dual-sector university)が設置されており、ディプロマから博士号まで広範なプログラムを柔軟に提供する教育機関も登場している。この30年、豪州では大学数が40校前後で推移しほとんど増減が見られないものの、非大学型機関が市場参入することで「高等教育」の内実は多様性を高めてきたのであり、機関競争の中で多様な教育・学習需要に対応し得るシステムが整備されてきたと言える。しかし、こうして高等教育の拡大と多様化を推進するためには、高等教育システムが持続可能性を担保し得る基盤整備が不可欠であり、事実、この30年間連邦政府の高等教育政策は「財政」と「質保証」をめぐって展開してきた側面が強い。現況がどうなっているのか、まず高等教育財政について概観しておきたい。現在、公立大学の財源はその半分以上を連邦政府が負担しており、中心をなすのは各大学の教育活動(teaching)に対して拠出される連邦政府補助金(CGS)である。ただ、連邦政府が高等教育費を丸抱えするわけではなく、一部は受益者たる学生が負担する。1974年から授業料無償化を続けていた豪州政府は、1989年に受益者負担重視の観点から高等リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019政策課題としての「財政」と「質保証」Change tostudent count19501960197019801990200020101.41.21.00.80.60.40.20.0(百万人)図表1 高等教育在籍者数(1950-2016年)出典:Norton & Cherastidtham 2018 : 20

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る