カレッジマネジメント214号
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40リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019教育費分担制度(Higher Education Contribution Scheme: HヘックスECS)を導入した。HECSとは、高等教育の私的便益を直接受ける学生が入学時に授業料として支払うのでなく、卒業後一定の所得額(repayment threshold)に達した段階から税制を通して学費の一部を、所得に応じた返済率に基づいて返済していく所得連動型融資制度だ。なお、HECSは、2005年に高等教育融資制度(Higher Education Loan Program: HELP)として授業料全額負担の学生に対する融資制度等も含んだ制度に再構築され、HECS-HELP(以下では、便宜上HECSと表記)として継承されている。さて、同制度の要諦は、HECSのC、即ちcontributionが示唆する通り、高等教育に要する経費について受益者たる学生が一部負担(貢献)し、残りを連邦政府が財政補助するという点にある。連邦政府による補助比率は専攻分野で異なるが、平均して60%である。HECSは、我が国の高等教育においても同様の制度導入が政策課題に上がるなど広く知られるようになっている(例えば「新しい経済政策パッケージ」2017年12月)。しかしながら、本家豪州の制度が必ずしも万全に機能しているわけではなく、近年はむしろ問題が深刻化しつつある。その一つが、学生自身が卒業後に返済すべき負担分(HECS debt or HELP debt)が、卒業生の所得が規定額に達しない等の理由から返済されないままになってしまう債務不履行問題だ。連邦政府が負担するHECS関連の負債額は年々上昇を続けており、2017年には約540億豪ドルに上っている。政府負債額は今後も増大が予想され、このうち最大25%が債務不履行に終わる危険性があると試算されている。こうした状況は制度の持続可能性を大きく揺るがす要因として認識され、連邦政府は2017年から、大学補助金の削減と学生負担増を目指す法律改正を展開し、漸く今年に入って法案が成立した。HECSに関しては、卒業生の負債支払い開始所得額が2017年度の5万5874豪ドルが、2019年度からは1万豪ドルも低い4万5881豪ドルに引き下げられる予定だ。さらに、高所得者の返済率も従来の8%から10%に引き上げられ、できる限り広い層の卒業生債務者から債務回収していくことになった。HECSをめぐる問題悪化の背景には、連邦政府が2012年から、医学分野を除く学士課程の全分野で大学入学志願者のニーズに応じて入学者を受け入れることを可能にする学生需要主導型システム(demand-driven system)が本格導入され、連邦政府による学生定員管理が取り除かれたことも影響している。同システムは社会経済的地位の低い層への高等教育機会の拡大を促し、これまで以上に豪州経済に大卒者を供給することを目指すものであったが、HECS利用者が大幅に増加したことに加え、大学入学基準が下がってこれまで大学に進学しなかった層が増えることで大学修了率が下がるといった結果を招くことにもなっている。こうして見てくると、高等教育システムの持続可能性を高めるための財政問題は「質保証」の課題とも不可分なことが分かる。振り返れば1990年代以降、拡大と多様化を進めた豪州高等教育にとって「質保証」の整備充実は重要な政策課題であり続けている。1995年には世界に先駆けて豪州学位資格枠組(AQF)が構築され、学校教育・職業教育・高等教育の各セクターで授与されていた学位・資格が整備された。その後2011年には、当時の国際的動向を踏まえ、16の学位・資格を①知識、②技能、③知識と技能の応用の3つの学修成果で整理し直し、10段階で構造的に示した新たなAQFに改訂がなされている。2018年に入ってからは、近年急速に普及する教授方法・技術の発展やさらなる資格枠組の国際的展開等を踏まえ、改めてAQFを見直す動きが進んでいる(Noonan 2018)。さらに、高等教育質保証システムの整備も、90年代の試行錯誤を経て2000年代に大きく進展した。2000年、「豪州大学質保証機構(AUQA)」が連邦政府主導で設立され、各大学内部の自律的質保証メカニズムの有効性を検証するオーディット方式の質保証システムが構築・運用された。その後、高等教育の拡大や新規機関の市場参入に対応すべく、より厳格な質保証体制として、明確に規制機関(regulator)と位置づけられた「高等教育質基準機構(TEQSA)」が設立された。TEQSAは、図表2にあるように高等教育の教育研究等質保証アプローチの転換と強化

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