カレッジマネジメント214号
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41リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019に関して明示的な基準を設定し、それらをクリアした高等教育機関の登録(再登録)を促すことで豪州高等教育全体の質を保証し、国際競争力を維持することを目的としている。その意味で、大学の自律性や主体性を重視したAUQAのオーディット型アプローチとは性格が大きく異なると言ってよい。ただ同時に、TEQSAによる規制は、潜在的リスクのある高等教育機関や教育プログラムを重点的にチェックするリスクベース・アプローチが採用されている点に特徴がある。学生保護や財政的実行可能性・持続可能性が損なわれる危険性の高いところに必要な対応をとることで、より効率的・効果的に高等教育の質低下を防ごうとしていると言える。豪州高等教育システムの持続可能性を考えるうえで、国際教育(international education)が有する可能性とリスクについて最後に見ておきたい。2017年度における国際教育による輸出額は303億豪ドルで、鉄鉱石(630億豪ドル)、石炭(571億豪ドル)に次いで第三位に位置づいている。これはサービス分野だけで見れば輸出額全体の36.4%を占め、観光等の旅行業212億豪ドルを凌いでトップに位置している。国際教育サービスにおける稼ぎ頭は依然として、207億豪ドルの輸出額を誇る高等教育セクターであり、全体の68.4%を占めるに至っている(DET 2018a)。この結果、留学生からの授業料収入は2017年時点で90億豪ドルを超えており、大学にとっては最大の収入源だ。こうして拡大を続ける国際教育の質保証は、留学生を受け入れる各大学自身はもちろん、豪州政府にとっても重要課題だ。連邦政府は、留学生のための教育サービス法(Education Services for Overseas Students: ESOS)を整備すると同時に、留学生の受け入れ体制がしっかり整備された教育機関を審査し登録管理するCRICOS(Commonwealth Resister of Institutions and Courses for Overseas Students)を運用してきた。他方で、驚くことに、国全体として明確な「戦略」が存在したわけではなかった。かかる状況を受け、連邦政府は2016年「国家国際教育戦略2025」(National Strategy for International Education 2025)を策定している。①基盤の強化、②変革的パートナーシップの構築、③グローバル競争への対応の3つの柱(pillar)で整理され、全部で9の達成目標と19の行動目標で構成されたものだ。さらに、同年には「2016-2020年グローバル同窓生エンゲージメント戦略」(Global Alumni Engagement Strategy 2016-2020)も策定され、世界で活躍する豪州高等教育の留学経験者を繋ぎ、活用していこうという動きも始まった。これまで蓄積してきた国際教育の可能性を伸長させようとする動きがある一方、近年拡大を見せる高等職業教育セクター(VET)も含め、留学生マネーへの依存は着実に高まっており、それ自体がリスクを孕んでいる。豪州高等教育の30年に及ぶ発展は、次代も持続し得る高等教育システムをいかに構築するかという新たな課題のフェーズに入りつつあると言える。【参考文献】Department of Education and Training (DET), (2015), Higher Education in Australia: A review of reviews from Dawkins to today.Department of Education and Training (DET), (2018a), Export income to Australia from international education activity, Research Snapshot, June.Department of Education and Training (DET), (2018b), Oshore delivery of Australian higher education courses in 2017, Research Snapshot, October.Noonan, P. (2018) Review of the Australian Qualifications Framework: Discussion Paper, Australian Qualifications Framework Review Panel, December.Norton, A & Cherastidtham, I., (2018), Mapping Australian higher education 2018, Grattan Institute Report No.2018-11, October. Part A 高等教育基準(Standards for Higher Education)第1条学生の参加と達成(Student Participation and Attainment)第2条学習環境(Learning Environment)第3条教育活動の基準(Standards for Teaching)第4条研究活動と研究者育成(Research and Research Training)第5条内部質保証(Institutional Quality Assurance)第6条ガバナンスとアカウンタビリティ(Governance and Accountability)第7条情報提供及び情報マネジメント(Representation, Information and Information Management)Part B 高等教育機関規準(Criteria for Higher Education Providers)図表2 TEQSAが設定する基準(2015年高等教育基準枠組)国際教育の可能性とリスク
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