カレッジマネジメント214号
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50研究は教育及び社会貢献とともに大学に求められる基本的な役割である。教育基本法は第7条1項において「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」とその役割を明記している。中央教育審議会答申(2018年11月)『2040年に向けた高等教育のグランドデザイン』においても、「大学は、教育と研究を一体不可分のものとして人材育成と研究活動を行っており、自由な研究の遂行を通じて社会に大きく貢献している」と述べられている。その一方で、教育の重要性に関する認識が広く共有されているのに対して、研究の意義に対する理解や重視の度合いについては、大学の置かれた状況、論じる者の立場や価値観等により大きく異なるのが現実である。2005年中教審答申(将来像答申)で示された大学が有する7機能のうち「世界的研究・教育拠点」に重点を置く大学は、研究力の強化に特に注力するとともに高い研究力こそ質の高い教育の基盤との認識に立つだろう。他方で、教育力や学生支援の手厚さで受験生を惹きつけることに主眼を置く大学もある。いずれの大学においても、個々の教員の教育能力や組織としての教育力が強く求められるようになってきたものの、教員の採用・昇任審査は依然として研究業績を主に行われることが多く、教員自身も自身の研究に関心が向きがちという状況が大きく変わってきたとは言い難い。加えて、多くの大学において教員に科学研究費補助金の申請をはじめとする競争的資金の獲得を促す傾向が強まりつつある。学内での科研費セミナーだけでなく、企業・団体主催の対策セミナーも盛んである。自校の特色や強みを伸ばすうえでも、教育の高度化を目指すうえでも、大学における研究の意義や教育と研究の関係について考えを整理しておくことは、大学運営に関わる以上、立場を超えて必要なことである。これらの理解なしに、教員を適切に採用したり評価したりすることも本来は難しいはずである。本稿では、直近の公開データに基づき研究を巡る現状と課題を整理した後、関連文献を手掛かりに大学における研究の意義について考え、その在り方を検討するための視点を提供することとしたい。近年、日本人研究者のノーベル賞受賞が相次いでいるが、受賞者の発言に共通するのは我が国の研究の現状と将来に対する強い危機感である。西尾章治郎大阪大学総長も「日本発の基礎研究が、世界を惹きつける存在であり続けることができるのか、『学術の中心』としての大学が国民の負託に応えること研究環境と若手人材育成に関する強い危機意識大学を強くする「大学経営改革」大学における研究の意義と課題について考える吉武博通 公立大学法人首都大学東京 理事リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 201980教育と研究は一体不可分
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