カレッジマネジメント214号
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51ができるのか、今こそ、足元を見つめ直さねばならない。恣意性をはらんだ世界大学ランキングにおける個別大学の順位変動に一喜一憂するのでなく、研究力低下のトレンドを直視することが大切である」(西尾章治郎(2017)「学術・基礎研究の危機と大学」『IDE現代の高等教育』No.589)と述べている。文部科学省科学技術・学術政策研究所(以下NISTEP)が産学官の一線級の研究者や有識者約2800名を対象に2016年度より行っている『科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査2017)』(2018.3)においても、我が国の基礎研究から、国際的に突出した成果が十分に生み出されていないとの認識が示されている。特に、研究環境(基盤的経費や研究時間の確保)、若手研究者や研究者を目指す若手人材の育成に係る問題、優秀な外国人研究者を定着させるための取り組み、イノベーションの源としての基礎研究の多様性、科学技術における政府予算等に関して強い問題意識を有していることが分かる。より具体的には、「選択と集中が過度に進んでいる」、「研究内容の偏りが見られ多様性は低下」、「出口志向が高まり、応用研究、実用性重視の研究が増加」、「諸外国(欧米、中国、インド)と比べたプレゼンスの低下」、「有名雑誌に掲載される日本の論文数が減少」、「国際会議の主要メンバーから日本人が減少、世界的に活躍している研究者が減少」、「運営費交付金の削減に伴い、研究者が削減され、研究時間の確保が困難になってきており、その影響が出始めている」、「基礎研究から応用、実用化への橋渡しがうまく機能していない」等の指摘がなされている。NISTEPがほぼ隔年で公表している『科学研究のベンチマーキング2017』(2017.8)では、論文数に着目し、2003-2005年平均と2013-2015年平均を比較することで日本のポジションの変化を明らかにしている。それによると、整数カウント法による日本の論文数は2位から5位、Top10%補正論文数は5位から10位、国際的な存在感を低下させつつある我が国の研究Top1%補正論文数は6位から12位へ、それぞれ順位を下げている。両期間で全世界の論文数が62%増加したのに対して、日本の論文数は、論文生産への関与度を示す整数カウント法で1%増、貢献度を示す分数カウント法で6%減となっている。他の主要国が論文数を伸ばすなか、我が国のみ停滞している状況は深刻である。なかでも中国の伸び率は300%を超え、世界での存在感が急速に増しつつある。韓国の伸び率も100%を超えている(論文カウント方法の説明はNISTEP『科学研究のベンチマーキング2017』報道発表文書12頁を参照)。世界的に国際共著論文数が増加していることも近年の研究活動の特徴であり、国際共著率が指定国立大学法人の申請要件の一つになる等、国も政策面で重視している。日本の国際共著率は、両期間で22.0%から30.1%に増加しているが、主要国の国際共著相手を見ると、ここでも中国が存在感を増している。例えば、米国の国際共著相手の第1位は中国であり、以下英国、ドイツ、カナダ、フランスと続き、日本は2003-2005年の4位から順位を下げ、2013-2015年は8番目の相手国にとどまっている。ベンチマーキングでは、日本の論文生産における部門・組織区分別の構造変化も追っている。そのなかで、大学等部門(国公私立大学、高専、大学共同利用機関法人)が日本の論文生産の74〜75%前後を担っていること、企業部門は1995年頃から急激に存在感を低下させていること、公的機関部門が2000年以降存在感を増しつつあること、といった状況が明らかにされている。NISTEP『科学技術指標2018』も、日本企業の論文数の減少を指摘するとともに、一方で、産学共著論文数の割合が増加していること、日本の大学と民間企業の共同研究実施件数及び研究費受入額が着実に上昇しているという実態も明らかにしている。これらのデータが描き出すのは、資金面あるいは時間人文・社会科学の特性に応じた評価指標の構築リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019

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