カレッジマネジメント214号
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52リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019的な制約が増すなか、国際共著率を高め、企業との連携を深めながらも、論文生産が停滞し、世界における存在感を急速に低下させつつある我が国の研究の現状である。将来を担う若手人材の育成にも大きな問題を抱えている。視点を変えると、実態が可視化されることで問題の構造もより鮮明になり、それらを共有することで、解決に向けた道筋を見いだすこともできる。問題はこれらの分析対象が自然科学系に限られるという点である。『科学技術指標2018』において、社会科学の論文動向に関する分析が一部試行されているが、人文学、社会科学、教育、芸術等の分野の研究の実態をどう認識するかは今後の大きな課題である。国を超えた共同研究が盛んになる一方で、学術研究における国際競争は激しさを増しつつある。国内においてはイノベーション創出への期待が高まるとともに、選択と集中、企業や社会と結びついた研究が一層重視される傾向にある。これらの状況の行き過ぎを危惧する声は自然科学系分野においても少なくない。先に述べたノーベル賞受賞者による警鐘がその象徴である。このようななか、日本学術会議は『学術の総合的発展をめざして─人文・社会科学からの提言─』(2017.6)において、「人文・社会科学には、時間と空間の視座を組み合わせ、多様なアプローチを駆使して諸価値を批判的に検証するという特質がある。学術の発展のためには、とりわけ中長期的な社会的要請に応えるためには、人文・社会科学のこの特質を活かすことが欠かせない。人文・社会科学と自然科学の双方が協働して学術の危機を克服し、人類が直面する諸問題の解決に当たらなければならない」と述べたうえで、5つの提言を行っている。その2つ目の「研究の質向上の視点から評価指標を再構築する」では、研究の多様性、文献への依存度の高さ、成果の公表方法、「スロー・サイエンス性」といった特性を考慮した評価方法や資金配分の必要性に触れつつ、「人文・社会科学の側でも、研究成果の公開・共有・可視性の向上を図り、分野の特性に応じた評価指標を確立させるべく努力しなければならない」と指摘している。研究に関する我が国の現状は、社会に如何なる問題をもたらすのであろうか。研究の意義、研究と社会の関係を考えるうえで、重要な問いである。国際的な存在感の低下は研究に限ったものではない。1995年時点で世界の17%を占めていた国内総生産(名目GDP)は6%まで低下し、一人当たりGDPもOECD諸国中3位から20位前後にまで後退している。こうした状況もあり、科学技術イノベーションの創出による経済成長の実現といった文脈で、研究が語られる傾向が近年ますます強まってきた。また、社会的課題の解決や地球規模課題への対応に資する知の創出への期待も高まりつつある。これらの期待に応えることが今日の研究に課せられた重要な役割であることは改めて強調するまでもない。社会的価値や経済的価値の創出への貢献は、社会の支持を得ながら、研究を持続・発展させるために必須の要件である。社会的・経済的価値の創出と精神・文化の豊かさの追求への貢献大学の研究の意義と課題を考えるための枠組み(概念図)精神的豊かさの追求文化的豊かさの追求教  育研  究社会的価値の創出経済的価値の創出大 学研究を通じての教育研究力ある教員の養成相補関係

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