カレッジマネジメント214号
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6リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019「学力の3要素」という言葉は既に、珍しい言葉ではなくなり、多面的・総合的評価と密に関係する言葉となっている。1990年代中頃までは、過度の受験競争の緩和が求められる中での入試の多様化、評価尺度の多元化であったものが徐々に性格を変え、「受験生の能力・適性等の多面的評価」となり、高大接続改革の方針を受けて「学力の3要素の多面的・総合的評価」となった。東京大学や京都大学をはじめとする難関国立大学でも推薦入試やAO入試の導入が進む等、学力検査のみを軸とする評価からの転換が図られており、この動きに追随する大学は少なくない。また、学部改組や新学部設置などの改革を進める大学には、既存の枠組みにとらわれることなく、入学後の教育システムや学習活動と連動したアドミッション・ポリシー(以下、「AP」と略記)を打ち出し、多面的・総合的評価を伴う入試制度を導入するケースも見られる。こうした先進的な入試制度改革について、筆者は4つのタイプに類型化し、各大学の置かれている状況や立場・戦略によって、そのタイプが分かれることを指摘した(本誌197号を参照)。一方、「大学入学者選抜改革推進委託事業、(文部科学省)では、人文社会分野(地理歴史科・公民科と国語科)、理数分野、情報分野、主体性等分野において評価手法の技術的な開発・研究が進められ、各大学の個別選抜改革を後押しする動きが見られる(2018年度まで)。また、全国の入試関係者が集まる全国大学入学者選抜研究連絡協議会(平成30年度大会)では、「入試担当者(アドミッション・オフィサー)の育成課題」が全体会のテーマになる等、多面的・総合的評価を担う人材育成に注目が集まっている。個々には、九州大学の「アドミッション・オフィサー養成プログラム」や大阪大学の「HAO(Handai Admisson Ocer)育成プログラム」といった人材育成プログラムの開発に加え、大学入試センターにおいても「アドミッションリーダー研修」が実施される等、入試に関わる専門人材の育成は大学間を超えた取り組みとなりつつある。こうしたなか、現高校1年生が受験する2021年度入試の予告が徐々に公表され始めている。大学入学共通テストや英語外部検定試験の利用に関する予告が主であるが、多面的・総合的評価から見て注目されるのは、2017年7月13日発表の「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」(文部科学省)で示された「筆記試験に加え、『主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度』(以下、「主体性等」と略記※1)をより積極的に評価するため、調査書や志願者本人が記載する資料等の積極的な活用を促す」という方針に対する各大学の対応である。主体性等の評価は、一定の時間をかけ、受験者に関する多くの材料をもとに丁寧に判定することが必要であり、短時間で評価するのは難しい。例えば、面接試験や集団討論のように対面型で受験生の性格や特性を引き出すような評価方法である場合、選考期間に余裕があり、受験者数も限定されるAO入試や推薦入試などで実施されることが一般的である。従って、評価期間が十分に確保できず、受験者数も大人数となる一般入試では、上記のような丁寧な評佐賀大学アドミッションセンター長西郡 大多面的・総合的評価がもたらす教育の質保証多面的・総合的評価の動向●Prole東北大学大学院教育情報学教育部博士課程修了。博士(教育情報学)。早稲田大学教育学部卒業後、民間企業を経て、東北大学大学院へ進学。日本学術振興会特別研究員を経て、2009年より佐賀大学アドミッションセンター准教授。2012年インスティテューショナル・リサーチ室長を兼務。2016年より教授。専門は入学者選抜方法論。
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