カレッジマネジメント214号
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7リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019価の実施は難しいため、各大学が公表する内容も未だ方向性に留まるものが多い。その一方で、先述の文部科学省委託事業(主体性等分野)では、高校時代における活動や成果だけでなくプロセスや気づき等、生徒自身がデータとして蓄積し、大学入試においても利用できる「JAPAN-e-Portfolio」という仕組みの構築を通じて、一般入試まで含めた主体性等評価の実証事業が進められている。最近の動向を総括すると、冒頭で触れたように一般入試以外の入試区分において、多面的・総合的評価を伴う先進的な入試改革を実施する動きがある一方で、一般入試における多面的・総合的評価として、主体性等評価をどう位置づけるかという課題に直面しているのが、各大学の置かれている状況だと言える。本稿では、特に後者の動きに注目し、「調査書や志願者本人が記載する資料等の積極的な活用」の在り方として書類審査を事例とすることで、一般入試における主体性等(特に、「主体性」)の評価について考えてみたい。「主体性が大事である」ということについて異論を唱える人は皆無だろう。何かに取り組む場面において受け身であるより、主体的に取り組む態度や姿勢が求められるのは、我々が経験的にも共有できる価値観である。ただし、主体的であるという状況には様々な場面があり、「主体的である」と何を以って判断するのかは一様ではない。この捉えることが難しい主体性について、その程度を比較することはさらに困難である。そうはいっても主体性等を評価することが求められている以上、建設的に検討していくことが必要である。ここでは、主体性評価を考えるための2つのアプローチを示したい。1つ目のアプローチは、受験生の「成果や実績」から主体性を読みとろうとするものである。主体的な生徒は、積極的な行動により顕著な成果や実績といった目に見える結果を得るはずであり、その成果や実績を評価すれば、間接的に主体性を評価できるという考え方である。この評価の利点は、成果や実績という客観的かつ構造的な情報主体性評価へのアプローチ(〇〇大会優勝、△△コンクール金賞等)に基づき評価できることである。例えば、受験生が申請する成果や実績の優秀性あるいは希少性等について明確に分類して評価できる枠組み(基準)を作ることができれば、機械的に自動評価することも可能となり、評価に要する時間や人的コストを大きく効率化することができる。この仕組みであれば、大量の受験者数を対象にしても対応できるだろう。一方、いくつか課題もある。まず、評価の精度である。数学オリンピック出場やメジャースポーツ等での全国大会入賞といった顕著な実績、一定の難易度が社会的に認識されている実績や成果であれば、明確な評価基準を作ることは難しくない。しかし、顕著な実績や成果を持つ受験生は一部に限られる。大多数の受験生は、日常的な高校生活の中で得られる実績や成果が大半であり、これらについて明確な評価基準を作成することは困難である。次に、申請された成果・実績の信頼性の問題である。例えば、部活動や学校組織等のリーダーを務めたという実績を評価する場合、リーダー決定にいたるプロセスまでは見えない。主体性を持ってリーダーを引き受けたのか、輪番制や抽選等によるものなのかを判別することは容易ではない。同様に、グループ活動による成果・実績も本人がどの程度関わったのかを当該情報だけで読み取ることは困難である。極端な場合、強豪チームに籍を置いただけというケースも考えられる。推薦入試やAO入試では、面接試験等と組み合わせて、どのように関わったのかについて聞き出すことにより、その真偽を確認することも可能であるが、書類だけを材料とした審査では、こうした背景までを含めた丁寧な評価は難しいだろう。2つ目のアプローチは、学びや活動の行動プロセス(過程)に注目して評価する考え方である。先述のように、一般的な受験生が申請する日常的な高校生活の中で得られる成果や実績を評価することは容易ではない。それであれば、成果や実績という結果の優劣を識別するよりも、その結果にいたるプロセスを重視して評価しようというものである。また、成果や実績といった結果には、運や条件による偶然的に得られたものもあるため、結果の再現性や持続性を考慮するのであれば、そのプロセスを確認する方が合理的とも言える。とはいっても、書類審査のみで特集 入学者選抜 改革の現状

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