カレッジマネジメント214号
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8リクルート カレッジマネジメント214 / Jan. - Feb. 2019プロセス評価を行う場合、成果や実績といった結果だけを評価するよりも豊富な情報が必要となる。そこで注目されているツールの1つが「ポートフォリオ」だろう。ポートフォリオに蓄積される高校での学びの記録、成果物、活動の振り返り等は、「どのように学んだのか」「課題や問題に直面したときにどう乗り越えたのか」等の学びのプロセスを把握するために有益な資料や情報として期待されている。一方で課題もある。まず、行動のプロセスを評価するといっても、置かれている環境や文脈等は個々人で異なるため、それらを一定の枠組みで評価するためのルーブリック等を準備しなければならない。当然のことながら、適切なルーブリックは一朝一夕に作れるものではなく、APで求める能力や資質等を踏まえて、具体的な観点や基準を定める必要がある。また、評価対象となる情報や資料が成果や実績のように構造的なものではなく、非構造的かつ定性的な情報で構成されているものが大半のため、人の目による丁寧な読み取りが前提となる。一般入試において全員の申請内容を丁寧に読み取るためには、時間や人的労力など膨大なコストを要する覚悟が必要だろう。上記2つのアプローチのどちらか一方が優れているわけではない。また、評価(採点)手続きには、「主体性」を多角的に捉えるために、「行動力」「学びを深める姿勢」「実績」等の複数の評価観点を定め、評価の重みづけをしたうえで、観点ごとの採点結果を総和する場合もあれば、細かく観点を設定せずに総合的に全体を評価する場合もある。書類審査を実施する場合、2つのアプローチに加え、これらの評価手続きまでを含めて検討する必要があるが、全ての入試において通用する優れた方法があるわけではない。各募集区分の目的や他の選考資料及び評価方法とのバランスを考慮して、適切な評価枠組みを採用する必要があるだろう。書類審査には、調査書評価も含まれるが、その利用については考えておくべき課題もある。まず、調査書作成に関わる高校教員の負担の増大である。現在の一般入試でも、調査書評価の課題と展望調査書の提出を求めるものの、主体性等を評価するための直接的な材料とするケースは稀である(例えば、配点化して評価等)。しかし、調査書が主体性等評価の直接的な材料として活用されるのならば、高校教員が調査書作成に費やす労力が今以上に増すことは容易に想像できる。さらに、調査書様式の見直しにより、「指導上参考となる諸事項」の記述欄が拡充され、枚数制限の緩和とともに、弾力的な調査書作成が可能となる。各高校は、生徒達に関する様々な情報(活動実績、生活記録、性格的な特性等)を蓄積して、それらを確実に調査書に反映することが求められる。そうなれば、調査書作成の力量(記述内容や情報量等)が従来以上に拡大することは明らかだろう。次に、「受験生の納得性」に関する問題である。例えば、調査書以外の学力検査の得点が他の受験生と同程度だったにも関わらず、調査書が評価されずに不合格となった場合、当事者は、どのように考えるだろうか。志願者本人が記載する資料であれば、自分がアピールしたいことを申請できるが、本人以外が作成する調査書ではそれができない。大学入試の面接試験において、十分に発言の機会があり自己アピールができたと感じた受験者は、当該試験に対する達成感や肯定感が高まることを、筆者は過去の研究で明らかにした。この知見を踏まえれば、自らが作成することができない調査書では、自己アピールの機会が得られない状況と同じであり、不合格という結果に対する納得性が得られないために、評価に対する不満に繋がりやすい。特に、成績開示によって、「調査書によって不合格になった」と受験生に認識されれば、深刻な問題へと発展しかねない。調査書を作成する高校側も、調査書を評価する大学側も慎重な取り扱いが求められる。こうした調査書評価に対する様々な疑問や不安を考慮すれば、調査書評価の最も重要な視点は、評価の位置づけであろう。一定の配点を設けて点数差をつけて合否への影響力を持たせたいのか。あるいは他の評価方法(例えば学力検査等)を軸とした補助的な資料として活用するのか等である。今後の調査書様式の見直しや電子化の議論にもよるが、現時点においては、補助的な資料として扱うのが現実的だと考える。例えば、志願者本人の記載する資料(例えば活動実績報告書や志願理由書等)の補助的
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