カレッジマネジメント215号
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11リクルート カレッジマネジメント215 / Mar. - Apr. 2019に毎年400万円を4年間払わなくても、地元の大学に2年間行って、良い成績を取ってそこで選抜されれば、候補生としてカリフォルニアに2年間通って卒業できる。そこでダブルディグリーも取れてしまうケースもある。そのようにモビリティを保証するルートがたくさん出てきているのに加え、学校間協定がなくても、個人でトランスファーできる国も増えてきている。日本でトランスファーの受け入れに積極的な大学は非常に少ないので、国際的に見て日本の大学は魅力が相対的に下がっている可能性があります。黒田 必要な時に必要な学問を一番学びやすい場所で学ぶという感覚でしょうか。こうしたケースでは、日本では編入試験を受けるのが一般的ですよね。小林 この10年でアジアの大学がオンラインを絡めたブレンディッド教育で飛躍的な成長を遂げていると言われていますが、そうした実態はあるのでしょうか。杉村 どの大学でもリソースの制約がありますので、それをいかに有効に活用するか考えた時に、オンラインや、従来型の対面授業とのハイブリッド形式というのは可能性としてあるように思います。日本も昔に比べれば留学制度や奨学金のバリエーションも増え、はるかに海外には行きやすくなっているとはいえ、学生の内向き志向というだけではなく、資格取得系等、どうしてもカリキュラムの制約から留学しにくい学部学科がありますし、経済的な問題もある。皆が皆留学に希望を見いだせるかというと難しい実情のなかで、こういう道が開けていくというのは、学習機会の保証という意味でも大きな動きかなと思います。コスト面も重要なポイントです。学習者が、コストに見合う価値があるかと自問自答するのは当然です。小林 それならまさにミネルバ大学がやっているような、キャンパスを持たずに世界7カ国を回りつつオンラインで教育を受ける設計にお金を払う形がスタンダードになる可能性もありますよね。杉村 その時に大事になってくるのは、繰り返しになりますが、やっぱり質保証ではないでしょうか。ただ学位が取れればいいわけではないと思います。世の中には様々な事情で移動ができる人もできない人もいて、教育プログラム提供側のモビリティも高まっている。そうしたなかでどういう進路をとっていくのか、いけるのか。教育機関にとっても、持続可能なプログラム提供はどこまで可能なのか。芦沢 モビリティについては二極化していますね。モビリティが高い層というのは、ある程度評価されて、ファウンディングをしっかり取っている層か、あるいはもともとお金持ちか。アメリカのモビリティを研究しているグループによると、留学する学生は圧倒的に白人の女性が大半を占めていて、黒人等マイノリティは行かない。マイノリティの留学促進を行う専門のNPOもありますが、そうした動けない層に対して、オンラインやハイブリッドで教育コンテンツを届けるというのは、コストを抑えてアクセスを高める意味で、すごく効果があるのかもしれない。杉村 黒田先生のお話にあった「ライフスタイル移民」もある一方で、今世界が抱えているグローバルイシューをどう扱っていくかという時に、そこに高等教育の介在価値があるわけで、そのアクセスにはオンラインが解決手段の1つになる可能性がある。一方で、例えばなぜ今中国の「一帯一路」構想に、奨学金支給があるとはいえ中央アジアの国々が喜んで自分たちの国の未来を託そうとするのか、そうした意味を考える必要もあります。そこにはどうしても国益との絡みもありますが、どんなプログラムでも、そこに学び手が一人ひとりいることを思うと、今動き始めたモビリティを巡る多様な動きを、本当の意味での高等教育の国際化が目指すべきところに持っていけるようにできたらいいですね。特集 高等教育の国際展開既存の枠組みにとらわれない時代は教育の独自性と質保証がより重要に(杉村)

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