カレッジマネジメント215号
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17リクルート カレッジマネジメント215 / Mar. - Apr. 2019一方で、近年では北京大学のビジネススクールが英国オックスフォードにキャンパスを設置したように、新興国ではなくむしろ高等教育先進国に進出することでReputation向上や教育研究力の伸長を図るパターンも見られる。また、昨今のミネルヴァ大学等新たな形態の発生やICT技術の進歩等、世界的な視点から未来の高等教育の在り方を遥か見通したとき、今後は新しいソフトな海外展開へのニーズが様々に出現することも予想される。例えばMOOCsを活用して海外トップスクールとカリキュラムの一部を共有、もしくは学生自身を共有し世界を股にかける等、学生や企業が魅力を感じチャンスと思える展開を大学が積極的に模索し提供することは、新たなマーケット創出という意味でも挑戦する価値は大いにある。加えて、地球規模での高等教育の在り方をはじめ様々な課題について学会やセクターの枠を越えて世界各国の大学と対話や連携を進める国際的大学リーグの創設を、大学人自らの発意により提案できないだろうか。学長レベルでの定期的対話や国際社会への提言、リーグ内での学生・研究者の積極交流等、アカデミア主導の未来志向の発信は大きなインパクトと意味を持って国内のみならず国際社会からも歓迎されるのではないだろうか。各国政府も様々後押しすることもできるだろう。世界では様々な単位互換システムや交流スキームが模索され、またASEMやASEAN+3等の場において政策対話が継続されている。文部科学省も、国内の閉じた議論にとどまることなく、世界各国と調和を図りつつ、ルールメイクの段階から積極的に関与しイニシアチブを取っていくことが必要だ。過去にも、例えば世界展開力強化事業における「AIMSプログラム」については、ASEAN諸国主導のプログラムにASEAN以外の国として初めて参加し、質保証を伴った学生交流の在り方においてルールメイクの段階から制度発展に貢献した。ユネスコの「高等教育の資格の承認に関するアジア太平洋地域規約」については、東京にて採択のための国際会議を開催し、通称「東京規約」として存在感を発揮した。加(3)政策的な後押しの重要性えて近年では、ASEAN+3教育大臣会合で承認され各国で活用されている「学生交流と流動性に関するガイドライン」と「留学生の学修履歴のための成績証明書及び補足資料に関するガイドライン」の策定において、我が国は主導的な役割を果たしている。今後は、こうした国際教育外交の動きと併せて、我が国の大学がより世界に挑戦しやすいような環境について、制度的には質保証は当然のこととして(その際の「質」が何であるかは十分な検討が必要だが)、現行法令の在り方を改めて見直し整備していくことが必要となるだろう。高等教育の国際化は、大学にとって単なる国際交流ツールではなく、教育研究の質そのものの向上、競争力の向上、ひいては国力の向上にも繋がる最重要事項の一つである。国にとっては、教育交流や科学技術交流による安全保障や世界平和への貢献という使命をも持つ。政治外交的に困難な関係であってもこうした交流は継続される。そして何より、次世代を担う学生や研究者にとっては、これからの時代は世界とより広く深く繋がりネットワークを広げキャリアを作っていくような多様なパスとそのための機会が必要であり、そうした世界に挑もうとする若手を教育面でも研究面でも支え伸ばすことに国際化の意味がある。個々人、大学、そして政府がそれぞれ国際化を実質的価値として当然のこととし、大学教育と学術研究を通じ各界各層で積極的に世界と繋がり、欧米追随ではない日本だからこそできるルールメイクへの貢献を人類の平和と発展のために成していく、それが我が国の高等教育の国際化の在り方ではないだろうか。食、文化、スポーツでも世界との接触が新たな価値を創造するように、世界に開かれた大学としてその価値をより高めイノベーション創出や多文化共生を先導していくことが、これからの日本の発展にとって不可欠であり、大学の執行部には、既存の枠に捉われることなく常にグローバルな関係性の中で大学経営を考えることを期待したい。終わりに──高等教育の国際化の意味特集 高等教育の国際展開

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