カレッジマネジメント215号
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26リクルート カレッジマネジメント215 / Mar. - Apr. 2019陣と直接触れ合うことで、学生の意識は大きく変わったという。出来合いのコースで教員が手をかけないプログラムとは違う経験をできる。こうした短期プログラムを、タイ、韓国、インドネシア、オーストラリア、ベトナムの大学と双方向で行っている。こうしたプログラムは政治経済学部だけでなく、他の学部でも行われている。例えば、商学部はフランスのレンヌ商科大学とファッション系の商品開発などをPBL学修で学ぶプログラム、法学部はイギリスのケンブリッジ大学と法律のプログラムを持つ等、各学部・研究科に広がりつつあるという。短期留学を通じて自信を持った学生が長期留学をできるように、協定校づくりにも力を入れている。2008年には約100校だった協定校も、2017年には約400校まで増加した。トップ校ともなれば留学に必要な英語水準として、TOEFL iBT®90、IELTSは低いところでも6.5〜7.0程度が求められるので、実践的な英語力の向上も重要になってくる。政治経済学部が2011年に開始し、2016年から全学プログラムになったカリフォルニア大学バークレー校のサマーセッションの話が興味深かった。今では、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、カリフォルニア大学デービス校、カリフォルニア大学アーバイン校の4拠点に広がり、2018年は44名の学生が参加したプログラムだ。開始当時の2011年には11名が参加したが、GPAの平均は1.89という悲惨な状況で、カリフォルニア大学バークレー校側からも学生に求める英語水準の変更を要求された。しかし、当時政治経済学部長であった大六野副学長は「2年待ってほしい、それまでにGPAが2.8を超えなければ基準を変える」と宣言し、実際に2年後にはGPAは2.8を超え、2018年には3.27まで向上した。サマーセッションの参加者・参加経験者のみのSNSグループを立ち上げ、副学長も管理者として参加し、サマーセッションに行く前から様々なアドバイスをしている。例えば、ディスカッションではとにかく何でも発言するように、study groupでは優秀な学生を見つけて組むとよい、オフィスアワーは質問を用意して毎回行くように、といったアドバイスをしており、そのきめ細やかさに驚いた。このプログラムに参加した学生の話を例に、「日本人学生の潜在的能力を見くびってはいけない」と強調する。ある学生から5月末ごろにSNSで連絡があり「全然分からない、もう帰りたい」と言うので、授業でこなすべき発表について具体的にアドバイスをし、「2週間こなせば何とかなる」と励ました。果たして、その学生のGPAは3.97と優秀な成績を収め、8月初めにバークレーの構内で会った時には、外国人の学生に囲まれて自信にあふれていた。まさに人生を変える経験だ。日本人の学生は、「アウトプットのスキルが用意されていないだけ」で、海外での学びの中で、学生たちは育っていると強く実感しているという。独自の魅力的なプログラムを組むことで学生達は大きく成長している。学内には授業以外に留学者と交流できるEnglish Caféもあり、学生団体による交流活動も盛んだ。国内にいても異文化と出会い、自分の生きる道を探ることはできるが、海外留学はインパクトが大きい。海外留学を通じて学生の心の中に化学反応が起き、自分のポジションが取れるようになる。また、2000名程度の学生が出入りするようになると、教員たちもゼミの学生から推薦状を頼まれるなど、学内の誰の目にも国際化が進んできたことが見えるようになってきた。学生達の成長という点では一定の成功を収めているが、よくよく考えてみると、日本の大学は国内でやるべきことを海外に投げているのではないか、という疑問を感じるようにもなったという。海外に留学した学生から、「なぜ日本ではアメリカの大学のようなダイナミックな議論ができないのか」と質問を受けることが多い。上述のカリフォルニア大学バークレー校のプログラムで成長した学生の例を考えても、なぜそれが日本の中でできないかと考えさせられる。日本のゼミでも少人数で議論する機会はあるが、価値観が類似した日本人だけでは議論にならないことも多い。異文化、ダイバーシティという環境があってこそ多様な視点からの議論が起こり、化学反応が起きやすい。国際化が進むことで、日本の大学が変われないでいる部分があぶりだされてくるが、こうした部分は小手先の対応では克服できない。日本の大学の歴史の中に澱のようにたまった構造のようなもので、これを変えることへ見えてきた成果と構造的な課題

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