カレッジマネジメント215号
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31リクルート カレッジマネジメント215 / Mar. - Apr. 2019特集 高等教育の国際展開大学の国際化にとって、留学は極めて有効な手段だが、これだけ人の国際移動が進んだ現在、ただ海外に行けばいいというわけではなくなってきている。むしろ、観光客誘致や移民受け入れの政策が推進される昨今、外国人のインバウンドが日本社会にもたらす多文化共生の課題が身近な問題として顕在化しつつある。そんな変化に着目すると、関西外大の国際化戦略も次のフェーズに入ったことが理解できる。その象徴は、2018年4月、創立70周年記念事業の一環として「御殿山キャンパス・グローバルタウン」が開学したことだ。新キャンパスはメインの中宮キャンパスから西に400m、歩いて10分ほどのところに位置している。グローバルタウンという名称が示すとおり、新キャンパスは単に学ぶだけの場として設計されたわけではない。世界各国から集まった留学生とともに「学」「食」「住」を共に実現できる「街」となることが目指されている。街は5つのエリアに分けられて学びや生活の場を演出しているが、その中核をなすのは、約650人が生活を共にできる多文化共生空間「GLOBAL COMMONS 結–YUI-」だ(写真)。YUIは単なる寮ではない。Diversity(多様性)、Experiential Learning(体験型学習)、Accountability(自己管理力と責任)、Global Community(グローバルコミュニティ)の4つのコンセプトからなり、日本人と外国人留学生が共に生活しながら実践的に多様性を学んでいく空間だ(図表2)。27セクションに分けられた各ユニットにリビング、キッチン、ダイニング、シャワールームが設置され、レジデントアシスタント(RA)が統括・支援する形で運営されている。1ユニット23または27室の個室に居住する多様な背景を有する学生たちが、共同生活を通してお互いの歴史・文化を学ぶという格好だ。そもそも、新キャンパス開学は英語国際学部が置かれていた学研都市キャンパスの移転が契機だった。ただ、普通のキャンパス移転では面白くない。いっそのこと、キャンパスを街に見立て、多様な人々が集い交流するグローバルなタウンにしてしまえば、学生は居ながらに多様性を学べるのではないか。そう思い至ったと谷本学長は振り返る。目指したのは関西外大の中に「世界の縮図」を再現すること。そんな取り組みは、「内なる国際化」が切実な課題になりつつある日本社会にとっても重要な意味を持つのではないかと学長は述べる。御殿山キャンパス・グローバルタウンは昨年4月にオープンしたばかりで、その教育的効果はまだ十分には読み切れないところがある。ただ、谷本学長は、学内での日常的な多文化経験がインセンティブとなって海外に出たいと思う学生が増えてくれることに期待をかける。関西外大は大学の国際化については老舗でその実績もある。実際、関西外大のカリキュラムはここ何年かで留学仕様を強める一方、正課外でも徹底した国際化が進む。国際化が組織の一部にとどまる「出島化」に苦戦する大学が少なくない中、これほど国際化を全面展開できる大学の存在は貴重だ。日本の大学国際化の方向性を占う試金石の一つと捉えたい。(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構教授)写真 YUIが創出する多文化空間図表2 YUIのコンセプトグローバルタウンが育む多文化共生

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