カレッジマネジメント215号
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46リクルート カレッジマネジメント215 / Mar. - Apr. 2019タを駆使したICT教育と技術職業教育訓練(Technical and Vocational Education and Training : TVET)の関連性、ならびに批判的思考やコミュニケーション・スキル、態度といった21世紀型スキルの修得を基盤とするラーニング・アウトカムをめぐる議論とも繋がる。「高等教育計画」では、アウトプットだけではなくアウトカムも重視するとされ、新自由主義の影響のもと、教育の効率性と対価を考えて展開されるべきであるとされている。そして、2025年までに高等教育への「進学率」を48%(2012年)から70%へ、また卒業生の雇用率を現在の75%から80%以上へ向上させるとしているが、そこには2000年代以降、高等教育の就学率が上がるにつれて問題になってきた高学歴の若年層失業問題がある。この背景には、マレーシアの人々が、特にプランテーションや製造業、サービス業、家事労働といった低賃金で重労働が伴う仕事を忌避する傾向があり、高等教育の修了者は希望に叶う職を得ることが難しいという状況がある。同時に、「高等教育計画」では、高等教育を受けた者が、知識や技術・態度といった点で必ずしも企業が求めている資質を十分に身につけているわけではなく、高等教育修了者と企業のニーズとの間にミスマッチが起きていることも併せて指摘している。今回の「高等教育計画」で挙げられた10の重点課題(Shifts)のうち、国際化やグローバル化よりも先に、第1~第4課題において高等教育のアウトカムに焦点が当てられているのはそのためである。そして具体的な方策としては、技術職業教育訓練を行う高等学習機関(Higher Learning Institute)と大学教育を同等の「高度な教育(Higher Education)」とみなし、ITや製造業などの職業スキルを学ぶ場となっていることを強調している。また、失業率の悪化を防ぐとともに、半熟練労働者の不足への対応が打ち出されている。政策の重点項目に生涯学習の推進が取り上げられ、大学や技能訓練学校での学び直しに取り組もうとしている点も、人材確保のための方策であると言える。マレーシア社会の問題をさらに複雑にしているのは、高等教育修了者の雇用問題がある一方で、単純労働や非雇用問題と高等教育の人材育成熟練労働者の不足を外国人労働者の受け入れによって当面補おうとしている点である。1990年代に始まった政府の外国人労働者受け入れは、インドネシア、ネパール、バングラデシュ、インド、ミャンマー等のアジア諸国の出身者が多く、マレーシア人と比べて学歴も低い。こうした外国人労働者の流入は、ブミプトラ政策のもとでもなかなか解消してこなかったマレーシア人の中でのマレー系と非マレー系の就労格差に加え、マレーシア人に対してさらに低い就労格差を抱えた外国人労働者という新たな社会階層を生み、マレーシア社会における人材育成という課題をさらに複雑なものにしている。外国人労働者の流入による社会の多様化は、高等教育にも影響を与えている。同じく人材育成や確保という視点から展開されている留学生の受け入れが、高等教育の現場では新たな文化摩擦を引き起こしているからである。外国人労働者と同様に、1990年代後半からの国際化やグローバル化に伴う留学生の流入は、前述のようにマレーシアを国際交流拠点とするとともに、新たな多文化共生問題を生んでいる。一時期、中国人留学生が多かったのに対し、その後、バングラデシュやインドネシア、インド等のアジア諸国、中東のイランやナイジェリアといったアフリカ諸国からも留学生が増えた。マレーシアが留学生にとっては第三国への留学通過点(トランジットポイント)となっていることは拙稿※2でも述べたが、他方でホスト社会としてのマレーシアに社会文化変容を起こし、エスニック・グループ間のバランスにも影響を与えるようになっているのである。「高等教育計画」の国際化戦略では、受け入れ留学生数を大学院レベルの受け入れ留学生数の増加を含めて2015年当時の10万8000名から25万名へ増加させることと、そのための海外での広報強化が挙げられており、今後も留学生受け入れ国としての方向性は堅持されようとしている。そしてクアクアレリ・シモンズ(QS)ランキングにおけるマレーシアの大学の位置づけを、上位200校内に1校という現状から、上位100校までに2校、上位200校までに4校へと増加させることが目標とされてい新たな多様化に直面する高等教育

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