カレッジマネジメント215号
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50リクルート カレッジマネジメント215 / Mar. - Apr. 2019ここには職員と教員の、お互いへの期待と信頼が垣間見える。榊学長は学長・理事長の立場での思いを「レベルも手法も、上場のいわゆる一流企業を目指す学生がたくさんいるような大学とは違った、我々なりのやり方で、入学してくれる学生に見合ったことをする必要があると思いました。次に思ったのは、それには教員だけではダメで、職員の力が必要だ、ということでした。職員の学生に対する志の高さは、本学の大きな力になっています」と話す。一方、松井氏も、「東邦STEPという企画の成立だけを考えれば教員に協力してもらわなくても成立したと思います。でも、教職が役割は異なれど手を取り合うほうがいい成果につながると考えました」と言う。教職の関係は良好とはいえ、東邦STEP導入時には困難もあった。予備校が関わることや正課活動との混在への懸念には、時間をかけて丁寧な説明を重ねたという。それでも学部の反対が一部覆せず、教員コースを断念して、公務員コースのみで始めることとなった。榊学長は、東邦STEPに対する教員の意識の変化を「最初経営学部以外は参加しないということでしたが、最近はその他学部もぜひ学生を参加させたいというようになっています」と説明する。「東邦STEPの受講生たちが真摯で非常にいい手本なので、他の学生から見える場所で勉強させたい、そのために特別にガラス張りの部屋を作ってほしいと言った教員がいます。また、東邦STEPとの関わりの少ない教員が1年生に東邦STEPを勧めたという例も聞いています」(榊学長)。甲子園が目標の野球部の場合、甲子園に出たかどうかは成果指標から外せない。これを「勉強の部活」に置き換えるとすると、成果指標は採用試験合格者数になる。東邦STEP1期生の現4年生は6名。そのうち公務員採用は消防の1名で、残り5名は一般企業に内定を得たものの、公務員は採用に至らなかった。この数字だけでは、成果は小さく見える。しかし、東邦STEPの意義等が受講生以外にも広まってプラスの影響があり、各分野合計で全学から15名の公務員採用試験合格者を出した。これは2001年の開学以来最多だという。「これまで安定的に輩出することができなかった公立保育士の採用試験でも、初めて1年間に4人合格しました。そんな成果を目の当たりにして、全学的に意識が高まっています」(榊学長)。松井氏は、受験時・入学前セミナーで取るアンケート等で「東邦STEP」の具体名が挙がり、入学動機になっていることも大きな成果だと指摘する。東邦STEPの受講者数も順調に伸びている。2018年度は入学者402名の約17%にあたる69名で、「入学者の20%」としてきた目標に近づいてきた。この間の実績が何もない中で受講者数が伸びている現実は、示している方向性への共感といえる。現在の課題は、まず「完走率」だ。1期生である2015年度入学生は、22名のうち今年4年次まで受講を続けたのは6名。松井氏は「1年生は合宿も含めて講座外活成果と課題動がしっかり組めているが、2年生、3年生はやや手薄」と分析する。対策として、アセスメントテストによる成長の可視化や公務員の仕事への意識を高める被災地支援ボランティア等、講座外活動の充実を考えているという。しかし実は、離脱理由で一番多いのは「目標が見つかって、公務員(教員)を目指さなくなった」というものだ。「初めの目標は公務員・教員採用試験合格でも、その上位概念にあたるコンピテンシーを強化していくと、自立して違う目標を見つける学生が増えてくるのです」(松井氏)。これは防ぐべき脱落ではなく、むしろ成果ともいえる。だから松井氏は「もちろんそうした学生の背中も押します」と言う。愛知東邦大学は2018年度、「オンリーワンを、一人に、ひとつ。」というコンセプトフレーズを打ち出した。榊学長はその意図を次のように語る。「これからの時代、偏差値とか学歴とか、そんな一つの物差しや過去形に頼っていては、刻々変化する社会で活躍できない。自分自身も充実した生活を送るには、小目標も大目標も自分の意思で設定し、それに向けて努力する姿勢を持ち、行動を習慣化して、目標を達成していく生き方に変えていかなければなりません。本学の4年間で自信や強みを身につけることに我々教職員が向き合っていく誓いとして掲げた『オンリーワンを、一人に、ひとつ。』。最も大事な私たちのスタンスだと言っています」。目標を自分で決め、努力する学生を(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)

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