カレッジマネジメント215号
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57リクルート カレッジマネジメント215 / Mar. - Apr. 2019環境を実現することは、地域経済再生に向けた最大の課題である。同時に、人口減、高齢化、インフラ老朽化等に伴う費用増を抑制しつつ、住民の生活環境を維持するための様々な工夫を施していく必要がある。地域における課題解決力の強化はもう一つの大きな課題である。これらを進めるためには、「人材の育成」、「知識・情報の蓄積と高度活用」、「場づくり」の3つが極めて重要になると考えられる。先進的な取り組みで注目される地域には、高い志、柔軟な発想、周囲を巻き込む力を持った人材が必ずいる。地位に拘らずそれぞれの持ち場でリーダーシップを発揮できる人材がどれだけいるかが、地域経済の再生においても地域課題の解決においても決定的に重要である。地域社会を担う人材を養成してきた大学も、このことを意識した教育を行う必要がある。また、既に地域で活躍する人材や他地域から移って当該地域で活躍しようとする人材に対するリカレント教育も、今後の大学の重要な役割になるであろう。2つ目の「知識・情報の蓄積と高度活用」について、地域経済再生を例にとると、まず、地域の経済・産業構造を正しく把握し、強みを生かして競争力ある産業に育て上げるための方策を考え、その実現に向けて種々の問題を克服するというプロセスが想定される。地域の経済・産業構造の可視化に関しては、従来の「産業連関表」に加え、近年では、「地域の産業・雇用創造チャート」や「地域経済分析システム(RESAS :リーサス)」が整備されている。競争力ある産業の育成にあたっては、技術動向を押さえたり、経済学や経営学の枠組みを用いたり、内外の事例に学んだりすることも必要である。このようなプロセスに大学が積極的に関わることで、分析の質が高まり、多角的な視点からの検討に基づく、実効性の高い戦略が練り上げられる可能性もある。3つ目の「場づくり」は、玄田(2010)が挙げた地域再生に不可欠な3つの条件と深く関わる課題である。自治体、人材育成、知識・情報の蓄積と高度活用、場づくり企業、金融、医療、福祉、教育、その他機関・団体等、地域の様々な主体が、トップやミドル等各レベルで対話を重ね、協働する。そのような場づくりは極めて重要である。地域の中で閉じるのではなく、地域外や海外とも開かれた関係を持つことで、多様な知恵を取り入れることもできる。大学の教育研究は地域に閉じられたものではない。国内の研究者ネットワーク、海外の大学・研究機関との交流は、大学が地域に貢献できる貴重なリソースでもある。大学は場づくりに積極的に関わり、主導的役割を果たすべきであろう。丹保(2011)は、「Land-grant型のCollegeはそれぞれの存在理由を持っていて強い特色があったのに、総合大学という名を冠されるようになると、東京帝国大学に始まる中央型の学部講座制大学を日本の大学の原型と見て(見誤って)しまい、地域貢献に始まる実学的研究教育活動が、全国化/国際化して地域に発する特色有る学問が創られていく方向を疎かにしてしまった誹りがある」と指摘する。行政、産業、金融、メディア等の中枢機能が東京(中央)に集積し、地域が主体性を失い、特色を薄れさせていく姿と重なり合う。持続可能な地域は、地域自らが切り拓き、築き上げていかなければならない。同様に、大学も「地域に存在することの意味」を今一度確認し、学内で広く共有する必要がある。そのうえで、地域の現実を直視し、教育研究を通して、あるいはより直接的な社会貢献として、諸課題の解決に地域と協働して取り組む必要がある。その際、短大や高専を含む地域の高等教育機関との連携は不可欠である。そのことが教育研究を発展させ、大学の特色を際立たせ、地域の持続可能性に寄与するだけでなく、大学自体の持続可能性を高めることにつながるはずである。「地域に存在することの意味」を確認する【参考文献】丹保憲仁「地域と結ぶ大学」『IDE現代の高等教育』No.536, 2011.2林宜嗣•山鹿久木•林亮輔•林勇貴『地域政策の経済学』日本評論社,2018玄田有史『希望のつくり方』岩波書店,2010
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