カレッジマネジメント215号
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9リクルート カレッジマネジメント215 / Mar. - Apr. 2019特集 高等教育の国際展開先生のお話のように、その学生達が何を学んで、どういうスキルを身につけて修士を終えたいのかというと、それは結構曖昧な学生が多い。とにかく修士の学位が欲しいと。なので、そうした学歴志向の学生が大学院の研究志向の研究室に入ってからコンフリクトを起こすこともあります。芦沢 アメリカの一部の大学院では、博士課程のプログラムを支えるために修士の学生数をどんどん増やしています。そうすると修士課程のそもそもの存在意義が分からなくなってきている面もあるかもしれません。小林 そうした背景で、何を学ぶのか、何が身につくのかを明確にしようとする動きはどうでしょうか。芦沢 所謂ラーニングアウトカムは欧州から世界に広がったキーワードですね。欧州では以前から共通枠組みとしてディプロマサプリメントというものがありました。学士課程の学生が就職する時や、修士を終えて別の大学で博士課程に進むといった接続の際に、品質保証的な意味合いで使われます。それとはまた別にディグリープロファイルというものも出てきています。これは例えばこの修士を取っている人は、こういうことができるようになっているべきだ、というように、各大学で卒業した学生がどんな能力を持っているべきかということを、アウトカムに基づいて定義づけするものです。小林 モビリティに関する質保証の動きはどうでしょうか。芦沢 アウトカムと同様に広がっているのが、NQF(National Qualications Framework)という資格枠組みの考え方です。これは国家による学位・資格レベルを認定する枠組みで、高等教育もカバーしています。欧州では国ごとにNQFがあって、それを通訳する共通言語としてEQF(European Qualication Framework)というものがある。A国で例えば6だったものが、B国では7と読み替えられるべきだという通訳をEQFがしてくれるというシステムです。それがあるから色々な国に学位や資格を持って人が移動することができる。これは主にEUの中ですが、オーストラリアにも30年近く、Australian Quality Collection モビリティの変化に伴い国境を越えて進められる教育の質保証の仕組みづくりFrameworkというものが運用されています。こうした資格枠組み等の概念を使って、アジア地域における学生や人材の移動を容易にするため、2018年には東京規約というものが発効しています。小林 東京規約とはどういうものなのでしょうか。芦沢 東京規約はユネスコが主導して、アジア太平洋地域における高等教育の資格認証を推進するために作られた国際的な取り決めです。正式には「高等教育の資格の承認に関するアジア太平洋地域規約」と呼ばれていますが、日本も2017年12月に批准しました。2011年に東京で会議が行われたから東京規約と言われています。内容は、海外での資格や学歴の読み替えができるシステムを作ること、もし海外からの資格や学歴について、読み替えができないとか、同等ではないと判断する場合はその理由を明示しなさいと、規定しています。これを本当に履行していくと、日本は海外から来ている多様な学歴や資格を持っている方達に対してある程度きちんとしたガイドラインを示して、該当しない人に対しては「あなたの場合は日本での資格は認められないので、こういう勉強をさらにしてください」というアドバイスをしなければいけなくなる。そこで日本が認証するガイドラインの提示が必要になり、NQFと絡んできます。小林 世界各国のNQFをしっかり運用することで、国境を越えて資格や学歴が活用できるようになる、と。芦沢 そうです。欧州のリスボン条約、アジアの東京規約等、全部で6つ地域条約がありますが、それらが機能するようになった時の対応が、これからの新しい日本の課題でしょう。ちなみに、この世界に6つある地域条約をまとめて世界条約を作ろうということを今ユネスコで検討しています。今草案検討の段階ですが、それが承認されれば2019年内には成立する可能性があります。地域条約があるなかで、さらにアンブレラとして世界条約ができるということなので、かなり大きな動きですね。黒田 近年の中国はこうした動きに非常に積極的です。拠出金もどんどん増えていますし、国家戦略に関する政府文書の中でも、ユネスコに積極的に関与していく方針が明確に出されているので、恐らくルールを作る側に回ろうと
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