カレッジマネジメント216号
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60リクルート カレッジマネジメント216 / May - Jun. 2019このような教員組織の特性や現実を踏まえて、変革のあり方を考えなければならない。職員組織については、階層的組織構造に伴う役職の上下関係、理事会や教授会との関係等、権威や支配の影響を強く受けがちである。そのようななかにあって、職員が、教員・職員の区分や役職・部署を超えて、自由かつ率直に意見を言い合える環境をつくりあげていくことは極めて重要であるが、教員組織の変革と同じく、職員組織を変えることにも様々な困難が伴う。ハーバード大学教育学大学院のロバート・キーガン教授とリサ・ラスコウ・レイヒー教授は、共著書『なぜ人と組織は変われないのか』(池村千秋訳、英治出版、2013年)において、変革の必要性は理解されているのに、なにが変革を妨げているのかが十分に理解されていないこと、どうせ人はたいして変われないと考えるリーダーが多い、との問題を指摘したうえで、大人の知性の発達に関する研究成果に基づき、大人の知性に3つの段階があると説明する。最初の段階が「環境順応型知性」である。「周囲からどのように見られ、どういう役割を期待されるかによって、自己が形成される」との説明が付され、チームプレーヤー、忠実な部下、大勢順応主義、指示待ち、依存、という特徴が挙げられている。2つ目の段階は「自己主導型知性」である。「周囲の環境を客観的に見ることにより、内的な判断基準(自分自身の価値基準)を確立し、それに基づいて、まわりの期待について判断し、選択をおこなえる」とし、課題設定、導き方を学ぶリーダー、自分なりの羅針盤と視点、問題解決志向、自律性、という特徴が示されている。3つ目の段階は「自己変容型知性」である。「自分自身のイデオロギーや価値基準を客観的に見て、その限界を検討できる」、「あらゆるシステムや秩序が断片的、ないし不完全なものなのだと理解している」等の説明が付され、メタリーダー、学ぶことによって導くリーダー、複数の視点と矛盾の受け入れ、問題発見志向、相互依存、という特徴が挙げられている。そして、ほとんどの働き手は自己主導型知性の段階に達しておらず、ほとんどのリーダーは自己主導型より高いレベルの知性を持っていないとし、知性の発達を後押ししつつ、変革を成し遂げるためのアプローチの有効性と実践方法について説明している。その特徴は、改善目標、阻害行動、裏の目標、強力な固定観念の4つの柱からなる「免疫マップ」を作成し、「変革をはばむ免疫機構」を明らかにしたうえで、強力な固定観念を覆すことで自己や組織の成長を促すという点にある(免疫マップの例は下表を参照)。同書では、優秀な若手が逃げていくことに危機感を持ち、変革に取り組んだ大学の教授会の事例、解決策はわ「人は変われる」との前提で知性の発達を後押し1 改善目標2 阻害行動3 裏の目標4 強力な固定観念大学の意思決定過程で隅に追いやられている状態から脱すること。教員や事務職員たちの決定に一方的に従うのではなく、大学行政の対等な参加者になりたい。大学運営の場に自分たちの代表を加えて欲しいと、強く主張していない。意見を表明する機会を与えられたときに、堂々と発言していない。自分たちにとって重要な問題に関して、自分たちの主張を事前に固めていない。非現実的なことを述べていると非難されたり、世間知らずだとばかにされたりしかねない行動を取りたくない。学生や上司の前で恥をかきたくない。大学運営の対等な参加者になるために必要な資質をもっていないと、思い知らされたくない。大学の教員と事務職員たちは、私たちにきわめて高い水準を要求している。しかも、すぐにその期待にこたえなくてはならない。もしそれができなければ、私たちに対する評価は大幅に低下するだろう。けれど、私たちはおそらく、期待にこたえられない。一度でも間抜けなことを言えば、決定的な打撃をこうむる。挽回できる日は二度と来ないだろう。私たちには、最初からすべてのことに精通していることが求められている。少しずつ学んでいくことなど許されない。いま自分たちが目標達成に必要な資質をもっていなければ、これからその資質をはぐくむことはできない。出典:ロバート・キーガン、 リサ・ラスコウ・レイヒー(池村千秋訳)『なぜ人と組織は変われないのか』 英治出版、2013、391頁 図11-2免疫マップの例〜「大学図書館の司書たちの免疫マップ」
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