カレッジマネジメント217号
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14大学のガバナンス改革に対する議論が盛んに行われている。一方では、全学的な大学改革をスピーディーに推進するための、学長のリーダーシップや権限を強化するという文脈で、他方で、私立大学の経営者の不祥事が相次ぎ、それらをいかに牽制するかという文脈で、ガバナンス改革が議論されている。いずれの議論においてもガバナンスは解決手段として期待されている点で共通だが、その方向性は真逆である。改革を後押しするためには権限の集中化はある程度必要だが、過度に集中化した権力体制は不祥事の温床にもなりうる。本稿では、日本の私立大学のガバナンスの制度的な特質は何か、また近年の制度改正でどのように改善が目指されて、それが各大学にどのような影響を与えたのかを確認する。そのうえで、ガバナンス改革が有効に機能し、大学改革を推進するために必要な要件を考えてみたい。日本の私立大学のガバナンス制度の大枠は、私立学校法によって規定されており、そこでの重要な原則は、「公共性」と「自主性」である。公共性を重視し、理事やオーナー一族の専断を防ぐための最低限のルールが定められている。例えば、理事定数の2倍を超える評議員からなる評議員会を必置機関としていること、理事は5人以上、監事は2人以上置くこと、役員に配偶者や三親等以内の親族が1名を超えて含まれてはならない(同族経営の防止)等がこれに当たる。ただし、一定の公共性を担保しつつも自主性を重視しており、法的な規定は総じて緩やかである。私立大学の成り立ちの多様性に配慮し、多様なガバナンス形態を許容し、各法人の寄附行為で決められる余地が大きい。例えば、理事長と学長が兼任可能、評議員会を議決機関とすることが可能、理事や評議員のメンバー構成の多様性、オーナー私大の存在等、極めて多様なガバナンスが存在しており、諸外国と比較しても日本の私大の特徴といえる。いくつかデータで多様な実態を確認しておこう。図1には理事長の経歴、学長の選出方法、及び理事長と学長の関係を示した。理事長は創業者やその親族、いわゆるオーナー系大学は大学法人で37%、短大法人で47%である。理事長の経歴で最も多いのは自大学の教員で、自大学職員や企業人・団体職員がそれに続く。理事長の常勤比率は大学法人で88%、短大法人で83%である。学長の選考方法(最も影響が大きいもの)では、理事会による指名が大学法人で40%、短大法人で53%、選考委員会による選出が大学法人リクルート カレッジマネジメント217 / Jul. - Aug. 2019私立大学のガバナンス改革現状と課題両角亜希子東京大学大学院教育学研究科 准教授寄稿理事長常勤比率88%(83%)同一人物22%(27%)学長①創設者または親族37%(47%)②経歴(直前) ・自大学教員36%(39%) ・自大学職員17%(24%) ・企業人・団体職員19%(16%)①選考方法(最も影響を与えるもの) ・理事会による指名40%(53%) ・選考委員会による選出33%(31%) ・選挙による選出20%(10%) ・その他 7%(7%)②学長選挙の実施率32%(15%)図1 理事長と学長の属性と関係(注)日本私立学校振興・共済事業団(2019)※1より筆者作成。( )の外は大学法人の数値、( )の中は短大法人の数値を示した。日本の私立大学のガバナンスの特質─多様性

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