カレッジマネジメント217号
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16リクルート カレッジマネジメント217 / Jul. - Aug. 2019く発揮することが求められた。私立大学のガバナンスでは自主性を重視しているが、そのことは多様なガバナンス形態だけでなく、できる限り行政介入を排除する制度設計になっている点に特徴づけられてきた。例えば、所轄庁は学校法人に対して解散命令は出せるものの、そこに至るための手段はほとんど持っていなかったことに象徴される。しかし、私立大学の経営危機、一部の私学の経営陣の不祥事が社会問題になるなかで、政府が私立大学に対して統制手段を十分に持っていないことが問題視され、改革が行われてきた。2002年の学校教育法改正で、教育面での段階的是正が可能となり、2004年の私立学校法改正で、理事会を法定化し、代表権を理事長に与えることで、責任体制を明確化した。また、外部理事の選任義務、財産目録等の関係者への閲覧義務化、事業報告書、監事報告書が閲覧対象になった。在学生のいる法人に対して初めて解散命令が出されることになった学校法人堀越学園の問題をきっかけに、2014年の私立学校法改正では、理事の忠実義務が規定され、措置命令や役員の解任勧告が可能となり、経営面での変更命令に係る手段を持つことになった。不祥事の問題のみならず、経営困難校に対して、文科省は2005年に「経営困難な学校法人への対応について」の方針を示したが、困難状態に至る前のチェックや指導・相談の充実をはかることを重視し、経営困難校に対してそれ以上に踏み込んだ対応はとってこなかった。しかし、2019年からは、少子化等で経営悪化が深刻な私立大学を運営する学校法人に対して新たな財務指標(「経常収支が3年連続赤字」「借入金が預貯金等の試算より多い」)を用いて指導し、改善しない場合は募集停止や法人解散等の撤退を含めた対策を促す方針を採用した。文部科学省の「私立大学等の振興に関する検討会議」や大学設置・学校法人審議会学校法人分科会の下に設置された「学校法人制度改善検討小委員会」でガバナンス改革の議論が行われた。私立大学のガバナンスは多様で、制度の一律改正が難しい面もあり、自らの行動規範としての私立大学版ガバナンスコードの作成が提案され、すでに日本私立大学協会では作成している。また、制度化が必要な内容について、2019年5月17日に改正私立学校法が参議院本会議で可決・成立し、2020年4月1日から施行される。私立大学が自律的なガバナンスの下で経営力強化と経営の透明性向上に努めることで、社会の理解と支援を得られることを目指すものだが、こうした議論のさなかに、日本大学のアメリ表1 近年のガバナンス改革の議論・制度改正2020年の私学法一部改正の内容年制度改正等改革促進のための制度改正の内容(リーダーシップの発揮/経営力強化等)不祥事抑制のための制度改正の内容(情報公開/透明性の確保/牽制機能の強化等)2002年学校教育法改正●教育面での段階的是正勧告が可能に2004年私立学校法改正●理事会を法定化し、最終意思決定機関に●評議員会を原則として諮問機関化●外部理事の選任●財務目録等の関係者への閲覧義務化●事業報告書、監事報告書を閲覧対象に2005年経営困難な学校法人への対応について2012年経済同友会「私立大学におけるガバナンス改革」2014年中教審「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」私立学校法改正●理事の忠実義務の規定化●措置命令や役員の解任勧告が可能に2015年学校教育法改正●学長補佐体制の強化●教授会の役割の限定化2015年~2020年経営強化集中支援期間2018年学校法人運営調査における経営指導の充実について(通知)2019年~新たな財務指標による指導・改善しない場合は対策を促す方針2020年私立学校法改正●中期的計画の作成義務づけ●評議員会の機能の充実●監事の牽制機能の強化●役員の職務と責任に関する規定●寄附行為、財産目録、貸借対照表、収支計算書、事業報告書、役員等名簿、監査報告書、役員に関する報酬等の支給基準の据え置き・閲覧、大学法人の場合は公表

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