カレッジマネジメント217号
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19リクルート カレッジマネジメント217 / Jul. - Aug. 2019が、将来の教員出身の学術管理職を発掘し、育成していくうえでも、適性のありそうな教員に運営を任せて、育てる等、これまでと異なる参加のあり方を考えることも必要だ。法改正で一定のガバナンス改革を促しても、もともと多様なガバナンス形態を許容しており、学内の仕組みのどこから、どのように変えていけばよいのか、一つの望ましい解があるわけではない。それぞれの大学に合った方策をそれぞれが考えて実現していく必要があり、経営陣に期待される役割は大きく、判断と実行ができる経営陣を育てなければならない。しかし、必ずしも現在の経営陣が、法律やその改正の内容や趣旨を十分に理解できているとは限らず、運用や解釈によっては内部統制機能が十分に働かないような機関が存在している。また、学長1人でやれることには限りがあるため、学長の補佐体制を充実させてきたが、どのようにチーム内での協力・権限委譲や役割分担を行っていけばよいか。近年は学外者を入れることへの社会的な要求も強いが、どうすれば効果的に活用できるのか。これらの解決には、一定の知識と意識を高めるための研修が必要であるが、東京大学の調査(図6)によると、理事長や理事等の経営管理職ほど、また理事長や学長等上位者ほど研修経験が少ない。学長へのインタビュー調査から、優秀な学長自身が考えるリーダーシップとして、ビジョンを示し実現につなげる能力や覚悟といった組織目標を達成するための努力と、構成員の理解や協力を引き出すための工夫やコミュニケーションという二側面を共通して重視していることや、優秀な学長は自ら機会を作って高等教育や政策について学んでいることも分かっており※8、研修の可能性に対する期待は大きい。昨年12月末、筆者が属する東京大学大学経営・政策コースで、私立大学の初任者学長セミナー(対象は就任1年未満の学長と学長就任予定者に限定)を初めて開催したが、想像していた以上に反響が大きく、研修ニーズが大きいことも分かった。様々な研修の機会を増やしていくことが必要だが、そのためには基礎的研究の蓄積も必要だ。参加者全員が、理事長と学長が別人タイプの大学・短大の学長で、班別意見交換等で理事長との関係は多く話題に上ったが、理事長のリーダーシップと学長のリーダーシップの関係はまだ明らかになっていないことも多い。どのような人たちがどのように運営しているのか、教育はどのように成果を上げているのかを分かりやすく、積極的に自ら説明していく姿勢が不可欠である。しかし、私立大学の多様なガバナンスの実態は、専門家の目から見ても分かりづらいし、それを理解するための情報も十分に公開されていない。2020年の私学法一部改正で情報公開はさらに進むことが期待されるが、法律で義務化されたから仕方なく情報を出すのではなく、社会から理解と支援を引き出すうえで不可欠であるし、あらぬ誤解や憶測から自らを守ることになると、積極的に捉え、社会に説明していく必要がある。※1日本私立学校振興・共済事業団(2019)『私学経営情報 第33号「学校法人の経営改善方策に関するアンケート」報告 大学・短期大学法人編 平成30年4月調査』※2両角亜希子2012「私大のガバナンス―私大協調査より-」『IDE現代の高等教育』No.545※3小林武夫2014「理事会決定と評議員会諮問―大学を設置する学校法人寄附行為の分析―」『大学経営政策研究』第4号※4ただし、各法人でどのような人が理事や評議員になっているのかを公表することが義務づけられておらず、そうした基礎的な実態さえも十分に明らかになっていない。※5他の公益法人の場合は評議員会が監事を選任するが、学校法人の評議員会の位置づけの多様性を考慮し、この部分は改正しなかったと考えられる。※6私学高等教育研究所2018『私大ガバナンス・マネジメントの現状とその改善・強化に向けて』※7広島大学が2018年に行った「大学への資源配分と教育研究活動に関する学部長調査(私立大学)」で、将来学長や副学長に就任を要請された時の対応を尋ねているが、受諾14%、やむを得ず受諾9%、わからない(状況による)45%、断る32%であった。同様の調査が過去に行われていないため、忌避する傾向が強まっているかどうかは分からない。※8両角亜希子2019「学長のリーダーシップとその能力養成」『名古屋高等教育研究』第19号(注)東京大学大学経営・政策研究センターが2015年に実施した   「大学上級管理職調査」より作成010203040506070学長・総長学長・総長以外理事長理事長以外経営管理職学術管理職30.745.256.658.5(%)図6 役職別にみた管理運営の研修を受けていない割合研修経験なしの割合特集 大学改革と新時代のガバナンス②経営陣に対する研修の充実③さらなる情報公開・社会への発信を

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