カレッジマネジメント217号
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27リクルート カレッジマネジメント217 / Jul. - Aug. 2019いるという。例えば、大阪工業大学では女子学生を増やすための様々な取り組みを進めるための広報や施設整備のプロジェクトがこの特別予算で進められた。そして、経営会議において、成果の数値化を含め、毎年振り返りを行うことでその効果を確認している。このような新たな予算配分の仕組みによって、各大学・学校において教育力・研究力を高めるための議論がなされ、それが各学長・校長や部長級職員等の法人内の役職者を構成員とする経営会議によって審査されることで、透明性を持った予算配分が各大学・学校の教育力・研究力を高めるための新たな取り組みへの意欲を喚起することにつながっているのである。久禮理事長は、3つの大学を有することの経営上の難しさを、「例えば、梅田キャンパスの新設のように大阪工大で大きなプロジェクトを進めると、他の大学からは『自分の大学に予算が回らないのではないか』と不安視されることもある」と話すとともに、「だからこそ、将来構想を明確に描いたうえで優先順位をつけて全体の経営を進めていく」と基本方針を示す。経営の透明性が相互不信を防ぎ、また、長期計画の共有と様々な意見や提案ができる開かれた機会、そして、経営会議や理事会を通じた学園全体での意思決定が、学園の魅力を高める新たな活力につながっているのである。常翔学園では、教育力・研究力を高め、「選ばれる大学」として特色のある教育をシステムとして進めていくための、多様な「連携」を進めている。例えば、大阪工業大学では、工学部・知的財産学部・情報科学部があることを活かして、工学部の学生が知的財産や情報科学等のもう一つの領域を学ぶことで付加価値を高めていこうとしている。学部・学科という単位を超えた連携による特色のある教育システムを作ろうとしているのである。また、新たに農学部を設置予定(2020年4月設置認可申請中)している摂南大学の枚方キャンパスには、薬学部と看護学部が既にあり、大阪工業大学の枚方キャンパスも近接する。さらに、2019年1月にはこれらの学園内の工学・薬学・農学に加えて、医学・歯学との連携による新たな取り組みを視野に入れ、隣接する大阪歯科大学や関西医科大学とも法人連携を進めた。大阪工業大学と摂南大学は、枚方市や産業界とともに枚方産学公連携プラットホームを2018年に結成している。「単体ではできないことを融合教育として行っていく」とし、今後、大学を超えた地域連携を進めるための仕組みである大学等連携推進法人制度が制度化されれば、その活用も視野に入れているという。大学を超えて連携し、地域の人材養成を進めていこうとしているのである。また、2017年に新設した大阪工業大学の梅田キャンパスでは、ロボティクス&デザイン工学部という新たな学部を置くとともに、大阪商工会議所と連携して、オープンイノベーション拠点となる“Xport(クロスポート)”を立ち上げた。これは、大阪の中心市街地である梅田を産官学民の多様な交流機会として、企業の課題解決をテーマにした新規事業の創出を進める場とすることを意図したものである。大企業であっても自社で全ての課題解決を進めることは難しいなかで、様々な産官学民をつなげ、クロスしていくこと、具体的には、大企業・中小企業・スタートアップ企業等の課題や技術、大学教員が持つネットワーク、学生の発想や行動力等を組み合わせ、デザイン思考で新たな発展を作り出す場として位置付けられている。「2030年には大阪の地盤沈下が予測されているが、大阪工大は梅田に進出し、人が集まりやすいことを活かして発展させたい」と久禮理事長は話す。大阪という地域の発展に、産官学民の連携を進めることで取り組んでいこうとしているのである。また、梅田キャンパスには、576席を有する音楽ホールとして「常翔ホール」を設置し、これまで不足していた文化・芸術・音楽分野との連携として、学校法人大阪音楽大学との間で音楽と工学の連携も進められている。このような様々な「連携」は、「魅力ある教育」を実現することで、地域の現場で活躍できる専門職業人を育てるという建学の精神を現代に具体化する取り組みといえるだろう。常翔学園では、さらに教育・研究の高度化を進めるための、働き方改革や人事制度改革にも取り組むとともに、入試制度改革等も視野に入れた入試戦略を検討する等、様々な改革を進めている。複数の大学・学校を運営する大規模な学園が、理事長のリーダーシップに基づいて「透明性の高い経営」「連携」を進めることで、スピード感のある積極的な改革が進められている。このような常翔学園の取り組みは国公私立を問わず多くの法人・大学のガバナンスの参考になるだろう。(白川優治 千葉大学国際教養学部准教授)特集 大学改革と新時代のガバナンス大学間・地域間の「連携」を推進

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