カレッジマネジメント217号
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2818歳人口の減少に悩みを持たない大学はない。定員割れ、志願者数の減少、入学者の質の多様化等々、そしてこれらは、私立大学にとっては財務基盤に多大なる影響を及ぼし、経営の危機に直結する。こうした時代において、2006年を底としてそれ以来2019年度まで、13年間連続志願者を伸ばし続けている大学がある。福岡市に所在する福岡工業大学である。この間、募集定員は830人から915人へと100人近く増加している。私立の工業系単科大学としては、そのことですら驚きなのだが、志願者数は3,313人から1万874人へと3.3倍にまで増加し、18歳人口の減少が始まる1993年の8170人をはるかに上回っている(図表1)。入試のタイプ別でみればセンター入試利用者が3.5倍にまで増え、国立大学との併願者の増加、すなわち志願者が高学力層にシフトしていることが分かる。この背景には大学を挙げての並々ならぬ努力があるからだが、やはり何といっても学生に対するきめ細やかな教育がなされていることにあろう。教育内容に関していえば、4年間の体系的なカリキュラムの編成、なかでも推薦入学者を対象にした入学前eラーニング、新入生を対象としたフレッシュマンスクールにおいて、基礎学力の確実な獲得に力を入れている。教育方法に関していえば、反転授業やアクティブラーニングの導入により、学生が自ら学ぶ環境を構築している。また、キャンパス全体のラーニングコモンズ化計画にもとづく教育棟の建替え、新たな教育方法に適した教室の整備等が、功を奏している。これらの取り組みは、ステークホルダーに認知されなければ、志願者増に結び付かない。大学への入口に関しては、県内のいくつかの大学や県内の高校との間で高大接続教育研究会を設け、大学における教育を高校に知ってもらい、また、高校生の研究発表会のサポート等を行ってきた。出口に関しては、学生に対する各種のキャリア教育を充実させるとともに、学内合同企業説明会を年4回以上開催し、西日本では最大規模になる約900社の参画を得ている。その甲斐もあって、実就職率(内定者数/(卒業者-大学院進学者数))は2010年の69%から2018年の95%にまで上昇した。これは卒業時に進路未定の者がほとんどいなくなったことを意味している。また、上場企業と、資本金3億円以上または従業員300人以上の大手・中堅企業への就職率も72%になった。教育の質の向上に伴う学生の質の向上が、さらなる志願者増を生み、それが経営・財務の安定性につながり、R&I格付けでは9年連続でA、JCR格付けにおいては6年連続でA+と評価されている。しかしながら、この好循環は決して一日でに成し遂げられたわけではない。これには20年の歳月を費やした改革物語がある。この改革を中核として担ってきた、常務理事の大谷忠彦氏、理事で事務局長の山下 剛氏にお話を伺った。改革の道程は、学校法人福岡工業大学(福岡工業大学・大学院、短期大学部、附属城東高校を擁する)に、現理事長のリクルート カレッジマネジメント217 / Jul. - Aug. 2019志願者のV字回復をもたらしたガバナンス大谷忠彦 常務理事福岡工業大学C A S E213年間右肩上がりの志願者数危機感からの改革

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