30リクルート カレッジマネジメント217 / Jul. - Aug. 2019資であり投資は回収、成果を見越して行うという概念を全学的に行き渡らせることになったという。 ちなみに2019年度のアクションプログラムにもとづく予算配分をみると、①教学学科等の取り組み、②大学事務局の取り組み、③教学からの要望にもとづく取り組み、④学生研究・PBL等支援の取り組みの4つのカテゴリーのうち、①と②がそれぞれ46%程度を占め、6%程度が③のカテゴリーを占めている。ここで注目すべきは教学レベルのアクションプログラムと経営レベルのそれとが同列に扱われており、教学に関する①と③に関しては、学部学科ごとに具体的な計画が提出され、それに対して予算が配分されていることである。一例を示そう。工学部電子情報工学科は「グローバルPBLを通じたグローバル教育の高度化」をはじめとする10の計画を提出し、それに対し約340万円が付与されている。教育改革をしようと思えば、その計画に応じて資金が配分されるが、改革を講じなければ予算付与されないという明白な論理がある。そしてその成果に応じて翌年度以降の予算配分が考慮されるという仕組みは、計画的な教学システムの構築につながっていった。PDCAサイクルを回すことの重要性はつとに指摘されるが、それを回す仕掛けがない限り画餅に帰すのである。教学体制にまで及んで改革が進行したことは、特異例かもしれない。これを可能にしたのは、この大学のガバナンス体制にある。それを示した図表3からは、理事長がトップとして法人と教学の双方に対してリーダーシップを発揮する仕組みとなっていることが分かる。このうち、理事長から常務理事、事務局長、そしてその下の部課長へ至る事務系の矢印は、階統制が確実に働くため問題なくスムースに動く。これは、他大学でも大きくは変わらない。ただ、危機的状況からの脱出のためには、スピード感を持った改革が必要であった。従って、100%には至らずとも60〜70%のところで次のアクションを起こすように言い続け、事務系では毎日、朝礼と終礼を行い、常に顔を合わせる環境のもとで情報共有を図り、「聞いていない」をなくすことに努めた。そのための事務室の構造が面白い。ごく普通に見られる、壁で区切られた部屋の扉を開けて入る構造ではないのだ。人の行き交うロビーに受付があり、その背後に並ぶ机はすべてロビーに向かって並び、事務室に立ち寄る者は、事務職員の全員の顔をみることができる。“For all the students”を体現する1つが、この事務室の机の配置であるということができる。教学組織の改革にも取り組んだ。どの大学でもそうだが、教員は個々人の独立性が高く、事務系と比較すれば組織で動くという感覚は希薄である。福岡工業大学では学長・学部長を任命制にしているので、理事長の考え方が学長・学部長に共有されるというルートは確立されていた。しかしながら、学長・学部長が任命制であったとしても、改革に時間がかかるというのが、通例である。事実、最初のマスタープランを策定したときは、教授会では侃々諤々の議論となり、アクションプログラムにもとづく予算配分方式を示したときは、教員か図表3 福岡工業大学のガバナンス構造教学部長職事務局長学長理事長常務理事財政計画策定委員会MP策定委員会運営協議会募集戦略会議常任理事会理事会部課長MT部長MT経営懇談会将来計画評議会※大学の課題に対し、教学・経営両面の視点から調整を実施(迅速な意思決定)学部教授会部科長会決定・指示提案・報告決定・指示決定・指示決定・指示提案・報告提案・報告構成員構成員議長選出選出…構成員総意のもとでのリーダーシップ
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