カレッジマネジメント217号
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33た。図1が示す通り、志願者数は新キャンパス開設を前に増加を見せた。その後2年ほど低迷はしたものの、ここ3年は再び増加に転じている。背景には「渋谷効果」もあるが、それだけではない。山本理事長は、一つには、高校生に受験してもらうべく地道に高校訪問を展開した結果だと指摘する。そもそも渋谷キャンパスを開学したことをちゃんと伝えられておらず、つい最近まで、実践女子は日野市だけにあると認識している埼玉や千葉の高校が少なくなかったという。もう一つ、オープンキャンパスを教職員中心から学生中心にシフトさせたことで、来場者(受験生及び保護者)の満足度が上がった。つまり、受験生に、大学・短大の魅力をしっかり訴求する取り組みと環境変化の掛け合わせが成果をもたらしたというわけだ。山本理事長は、実践女子大学・短期大学部が私立女子大学御三家に次ぐ中堅に位置づくと見る。実践に行きたい、実践を卒業したことを誇りに思うという大学・短大になってほしいし、そんな大学・短大になるために、学生募集については質も量も追求していきたい。その意味で、日野キャンパスにある生活科学部も保育士や管理栄養士等の有資格人材を輩出することで、地域コミュニティーに貢献していくという可能性をさらに広げていきたいという。今後の課題は、志願者を増やし続けつつ質も上げるという好循環をどう生み出すかだ。そんな課題に対処すべく、実践女子大学・短期大学部では2019年4月、新たな取り組みをスタートさせた。学生個人の学びや成長をワンストップで捉える学生支援制度、J-TAS(ジェイタス,Jissen Total Advanced Support)がそれだ(https://www.jissen.ac.jp/j-tas/)。2018年11月には、従来キャリアセンター、入試センター、学生支援センター等に分かれて提供されていた学生支援サービスを一元化すべく、「学生総合支援センター」が新設された。J-TASは、学生一人ひとりの個性に応じた成長を、入学前→入学→履修→卒業→卒業後の流れに沿って「見える化」し、包括的・連続的に支援しようとする仕組みだ。「授業」「課外活動」「成長診断テスト」「学修ルーブリック」「自己成長記録書」「担任教員・学生生活支援スタッフ・キャリアアドバイザー」「個別サポート」という7つの要素で構成され、卒業後も含めた学生の成長を可視化し支援していくことを目的としている。例えば、成長診断テストは、社会で必要とされる「実践力」の要素として求められる能力として「研鑽力」「行動力」「協働力」の習得レベルを診断できる独自開発ツールだ。そのテスト結果は、授業や課外活動の記録とともに自己成長記録書に記録されていく。それを用いて学生支援に当たるのは、担任教員(アカデミック・アドバイザー)であり、キャリアアドバイザー、カリキュラムアドバイザーといった学生支援の専門家だ。つまり、複数のツールやルーブリックを用いながら、個人の成長をデータベース化して一元的体制の下で専門スタッフが個別指導を行い、卒業後のリカレント教育や転職等にも拡大していこうという試みだ。そんな取り組みを重ねる先に想定されているのは、「成長にコミットする大学」という像だ。リメディアル教育(補修教育)という意味合いの強かった学習支援は今、より広い層の学生に働きかけることで大学コミュニティーへの包摂を目指そうとしている。J-TASはその好例であり、「社会を変える、世界を変える」女性を長く支援するという意味で建学の精神に符合する取り組みと言ってよい。J-TASのような取り組みに見られるように、大学・短大が新たな学生ニーズやその他の多様な課題群に応え、さらに飛躍していくためには、機関レベルの体制整備が欠かせリクルート カレッジマネジメント217 / Jul. - Aug. 2019特集 大学改革と新時代のガバナンス学生支援サービスをワンストップ化ガバナンス改革①外部人材登用による透明性の確保図1 実践女子大学・短期大学における志願者数推移(2009-18年度)2,0003,0004,0005,0006,0007,0008,0009,00010,0002018201720162015201420132012201120102009(人)(年度)

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