カレッジマネジメント217号
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46リクルート カレッジマネジメント217 / Jul. - Aug. 2019ひとりの詳しい就職データが手元にある。誰がどこの会社を受けて、何日に一次通ったとか、二次の面接がいつあるとか。キャリアセンターに届いた情報もすぐに共有されます。さらにそれを、LINEで学生本人と共有して、デザイン面接前にはデザインチェックしたり、『そこを受けるなら、日経のこの記事は読んでおいた方がいいよ』とかアドバイスを送ったりします」。1学年600人という規模だからこそのきめ細かさだ。成果が出るのに時間はかからなかった。「実績が出やすい学科があるのです。建築・環境デザイン学科、グラフィックデザイン学科、プロダクトデザイン学科あたりから、大手メーカーに毎年、デザイナー職として採用される。そういう成功事例を作って見せながらやっていきました」。2013年には就職内定率(内定者数÷就職希望者数)が87.2%となり、目標をほぼ達成した。美大としては驚異的な数字だ。2019年度は全学で97.1%。就職率(就職者数÷(卒業者数-大学院等進学者数))でみても、多くの美大が60~70%前後のところ、2016年度には芸工大は88.3%と群を抜いていた。しかし中山学長は「改革によって、学生の就業意識が高まったのではありません」と言う。社会におけるアートとデザインの重要度、必要度が高まったため、自然にそうなったというのだ。そして「自分が改革に貢献したとすれば、産学連携を積極的にやったこと」と続ける。「出口」ではなく「中身」の改革だ。「産学連携の依頼が大学全体で年間約100本ある。それを活用して100%の授業にクライアントがいる状態にしようとしています。今、7割くらいがそういう『ゴールのある授業』になっています」。これまでの演習は「こんなコンサートがあったとする。ポスターをイメージして作れ」という机上の空論。そうではなく、現実のコンサートを開く企業をクライアントとして、ポスターの依頼を受けてそれを作る。社会とのつながりの観点では、東日本大震災の現場体験も大きかったという。「被災地に支援に行った学生が活用したのは、若さだけではなく、アイデアでした。普段やっているクリエイティブが、避難所を豊かにしたのです。仮設住宅がみんな同じような家だからと、家族にインタビューして、家ごとに個性のある表札を作ったのとか、小さなことですけど、すごく喜ばれました」。被災した人に喜ばれる経験をして、学生は大きく成長した。その後も、イベント企画や被災地マップ作り等、自発的な動きが続いているという。「不謹慎かもしれないけれど、震災の時にものすごく、僕ら大学と現実の社会が接続できたと感じています」。今後のビジョンについて中山学長は「現実に動く事業を作らないと継続しない。今一番取り組みたいと思っているのはそのこと」と言う。そんな事業の1つは街づくりへのより積極的な参画だ。「山形は全部の課題が集まる課題先進県です。例えば人口減少と少子高齢化の進むなか、遠隔地に分散している高齢者を街の中に住まわせることが課題になっている。その1つのモデルとして山形大と共同で始めているのが、山形駅近くのある一帯の空き物件を一括で借りとって、リノベーションして山大生と芸工大生の寮にするプロジェクトです。数百人の学生が住む学生街をクリエイトして、その賑わいに憧れて山大や芸工大に来てくれる人を増やそう、と」。もう1つはインキュベーションセンターの設立だ。「せっかく勉強したクリエイティブを活かせる仕事がここにないので、東京や仙台に嫌々行く卒業生がいるんです。『水がまずい』とか『ゴキブリがいる』とか、泣きのメールが毎月のように届く。そんな若者を山形で起業させたい。山形大と一緒に、公的な資金も入れて地元に小さな会社が起業できる基盤を作ることを考えています」。「ここにしかない価値」を作り出そうとしているのですね、と中山学長に問うと、「かっこよく言うとそうですが、大学だけ、うちの法人だけが何かするのはやめました」と返ってきた。「山形大とも、東北学院大とも、酒田の公益文科大とも組む。本学は、連携を提案しやすい大学だと思います。みんなで盛り上げないと、街自体が死んでしまう。そういうことを一所懸命取り組んでいるところです」。約7割が“クライアント”のいる授業に現実に動く事業を地域の大学間連携で進める(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)

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