カレッジマネジメント217号
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7リクルート カレッジマネジメント217 / Jul. - Aug. 2019的な責任者である学長に十分な権限がなかった。私も中教審の委員としてそれを変えるべきだという発言をしましたし、経済同友会でも提言を出しました。そして、2014年に学校教育法の93条が改正され、教授会は意見を出す場であり、最終的な結論、最終的な方針は学長が決めるということに変わり、学長の権限としては明確になったとは思います。司会 大石先生や吉武先生は、企業から大学に来られ、先ほどの教授会のなかの一員としての経験もおありですが、大学のガバナンスにどういう課題感を感じられましたか。大石 北城理事長がおっしゃった通り、教授会で物事を決めていたわけですが、教員全員がその教授会という重要な場に集中して参加しているかというと、必ずしもそうではなかった。これでは物事は何も決まらないのではないかと、当初はカルチャーショックを覚えました。その後、本学も学長権限にほぼ全て移行しましたが、学長が一人で決めるかというと、それも問題がありますから、運営会議というものを開き、参加する各代表者が決定したことを主任会、教授会に出していくという方法に変えたので、随分と意思決定がスムーズになりました。ただ、172名の教員全員が同じ方向を向いているわけではなかった。そこで私は全教職員の名前と顔と仕事を覚え、特に改革に対して意見をもった先生に対しては部屋に行って直接会話しました。すると会議の時の意見と変わるんです。私はもともと学長選考委員会において一番強く訴えたのは「個人ではなく、組織を強くする」こと。そうしないと本学はもう生き残っていくことは不可能だと。組織を強くするために、法人としての方向性を確立して中期計画も作り、それを理解してもらえるよう先生方一人ひとりに働きかけました。吉武 私の場合は、教員個々の興味・関心を基礎とした研究と「自由」は大学の一番の価値だと思っているので、企業から大学に移ったときもあまり違和感はなかったんです。一方、教育という側面では、大学の名前で学位を出すわけですから、組織が一体となり、教員同士あるいは教員と職員で協力し合う必要がある。だからまずは教員が自由な発想で研究して、学問的水準を高めながらも、教育の質の向上のために組織的に改革に取り組む。その両方が大切だと思います。今の大学の現場では、経済界や政治・行政から言われて、改革を「やらされている」と思っているように感じますね。大学と外の世界の議論が十分かみ合っていないないと思います。大石 大学は、そのブランドで社会に卒業生を送り出すわけですから、教育については組織としてしっかり取り組むべきだと私も思いますね。一方、研究については自由であるべきで、本学では研究費については削減しません。先生のフィールドは大事にしなければいけないと思います。北城 私も、教員の研究の自由は大切だと思うのですが、一方で何も研究しない教員も出てくる可能性もあります。学校は、優れた教員を周囲が評価し、学生が集まってくるものですから、教員は優れた研究を行い成果を出さなければいけません。もし短期的に成果が出るものでなくても、学部長なり学科長がしっかり見て評価できていればよいと思います。ただ、「上司による評価」という考えが日本の大学にはない。この点も問題の一つでしょう。学長が学部長を選ぶのですから、学部長は学部の長として組織運営をやり、研究科長は優れた研究が行学校の10年先の目標の実現に向けて、優れた人を育成し、選出する仕組みと、優れた人に権限を与える仕組みをしっかりと構築することが重要(北城氏)特集 大学改革と新時代のガバナンス

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