カレッジマネジメント218号
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57リクルート カレッジマネジメント218 / Sep. - Oct. 2019る。「正しく」「読みやすく」「丁寧に」を目的に、実用的な課題をこなし、書写技能の向上を図る。簡単なものから始まり、徐々に難しいものへステップアップできるように構成されているが、ポイントは、この課題をクリアしなければ、まほろば教養ゼミの単位ももらえない仕組みになっていることだ。「ものの言い方や態度もそうですが、人に不快感を与えてしまったら、どんなに優秀でもそこから先に行くことは難しくなってしまう。硬筆を取り上げるのは、就職活動などで一番初めに見てもらうのが自筆の書類になるからです。そこで不快感を与えてしまったら、あまりにもったいない。そうした考えから、この講座を課しています」と学長は言う。なかには課題をクリアするのに苦労する学生もいる。しかし、卒業したあとに寄せられるのは、「あれがあって良かった」という声ばかりだ。安田女子大学の文学部には書道学科がある。硬筆書写講座は、その卒業生達が中心となって支えている。通学専用エスカレーターにオリエンテーションセミナー、まほろば教養ゼミ、チューター制度、そして硬筆書写講座──。最近週刊誌等が行う大学ランキングのなかには、「面倒見のいい大学ランキング」というものがある。世間は安田女子大学を「面倒見のいい大学」と見ているのではないだろうか。しかしながらこの「面倒見」という言葉が出たとき、瀬山学長は次のようにきっぱりと断った。「面倒見のいい大学とは、言わないようにしています。人間というのは、面倒を見られると心地いいものですから、そちらになびいてしまうでしょう。それでは成長できないのです。面倒は見ません。その代わり、丁寧に対応します。学生が受け身にならないよう、しっかりと支えていくという方針で臨んでいます」。実は通学専用エスカレーターも、「面倒見」という文脈で設置されたのではない。このエスカレーターには、「胸を張って学び、そして生きていってほしい」という大学側の願いが込められている。エスカレーターの先に広がる開放感あふれるキャンパス。ここで自分達は、チューターをはじめとする教職員に支えられながら、友人達と充実した学生生活を送っている。なるほど、その時間の積み重ねは、たしかに学生達にとっての大きな自信になるにちがいない。瀬山学長への取材を終え、キャンパスをあとにしようとしたとき、お揃いの紺色のスーツを着た二人の学生をみかけた。見送りにきてくれた職員の方が「ああ、あれはうちの制服ですよ」と教えてくれた。安田女子大学には、入学式や卒業式などの式典のほか、定期試験や公式行事などで着用することになる制服がある。この制服は就職活動でも着るという。そしてその活動の結果、安田女子大学の就職率は、景気の状況に拘わらず、ここ十数年、ほぼ100%。「就職の安田」「安田ブランド」と表現されることも多い。ただ、これほどの就職率は、就活の細かい指導ゆえのことではない。女性が「人として」生きていくために必要なことを、ぶれずに教えていく。地に足をつけた取り組みを続けてきたことの結果にほかならない。そしてさらにいえば、大事なのは「分かりやすさ」だ。学長は「学部の増設や組織改革も、分かりやすい構成であることを意識しています。理解してもらえるということが重要ですから」と強調する。安田女子大学が何を目指しているのか、分かりやすいかたちで見せているからこそ、企業も、高校生や保護者も、安田女子大学を高く評価している。学長は次のようにも語ってくれた。「企業の方は、『安田女子大学から来てくれた人は、一生懸命まじめに仕事をする』と言ってくれます。うれしいことです。私達の大学イメージもこうしたものだと捉えています。これからの課題は、『素晴らしい力を持っている』という卒業生をいかに育てるか、でしょうか」。安田女子大学の挑戦はこれからも続く。そして、そのための基盤は既に十分築かれているように思われた。(濱中淳子 早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授)特集 進学ブランド力調査 2019「面倒見がいい大学」にはならない安田ブランドのベースにある「分かりやすさ」
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