カレッジマネジメント218号
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77リクルート カレッジマネジメント218 / Sep. - Oct. 2019い」との意識も分からないではないが、労働や労働者に対する認識があまりに一面的過ぎるように思われる。「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)」の第一の要点は、不合理な待遇差の禁止であり、これにより、同一企業内において、正社員と非正規社員の間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な差を設けることが禁止される。より具体的には、パートタイム労働者・有期雇用労働者について、「均衡待遇規定」により、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の内容を考慮して不合理な待遇差を禁止するとともに、「均等待遇規定」により、職務内容、職務内容・配置の変更範囲が同じ場合は、差別的取扱いを禁止する。ここに言う職務内容とは「業務の内容+責任の程度」である。また、派遣労働者については、派遣先の労働者との均等・均衡待遇または一定の要件を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することを義務化する。第二の要点は、労働者に対する、待遇に関する説明義務の強化である。雇入れ時の有期雇用労働者に対する、雇用管理上の措置の内容に関する説明義務(パートと派遣については既に義務化)、非正規社員から求めがあった場合、正社員との間の待遇差の内容・理由等を説明する義務、説明を求めた労働者に対する場合の不利益取扱い禁止規定、をそれぞれ創設する。第三の要点は、行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備である。これらの法改正に基づき、厚生労働省は2018年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン」を公表し、正社員と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差が不合理なものでないのか、原則となる考え方と具体例を示している。ガイドラインでは、基本給、昇給、賞与、各種手当などの賃金にとどまらず、教育訓練や福利厚生等についても記載している。禁止される待遇差が広範に及ぶことに留意する必要がある。また、厚生労働省は2020年4月1日施行に向けて準備すべき事柄を取組手順書として示している。その要点は次の通りである。大学においてもこれを機に実態を整理した上で、新たな業務体制と人事管理の構築を目指す必要がある。大学教員の労働時間管理に話を戻すと、多くの大学は自己申告で対応しようとしているものと思われるが、実際の運用は決して容易でなく、実効性の観点からも様々な課題があるだろう。また、現在の大学は、任期付き教員、有期雇用職員、派遣職員など多様な構成員の貢献なしには成り立たない。不合理な待遇差の禁止と説明義務の強化に適切に対処するための課題は多い。新たな法規制により労務リスクは間違いなく高まる。その回避のためだけでなく、教員の働き方を見直しながら、教育・研究の質を高めるために何をなすべきか、多様な雇用形態の構成員が能力を発揮できる環境をどう整えるかなど、この機を活かす積極的な姿勢や取組も大切である。そのためにも、働き方改革が何を求めているのか、その本質を理解することが不可欠である。本稿執筆にあたっては、厚生労働省Webサイト内「「働き方改革」の実現に向けて」の掲載情報を参考にするとともに、首都大学東京人事課長那須牧子氏、同課主任亀谷将之氏から資料収集等の協力を得た。不合理な待遇差の禁止と説明義務の強化手順1労働者の雇用形態を確認する手順2短時間労働者・有期雇用労働者の区分ごとに、賃金(賞与・手当を含む)や福利厚生などの待遇について、正社員と取扱いの違いがあるかどうか確認する手順3待遇に違いがある場合、違いを設けている理由を確認する手順4待遇に違いがあった場合、その違いが「不合理でない」ことを説明できるように整理する手順5法違反が疑われる状況からの早期の脱却を目指す手順6改善計画を立てて取り組む

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