カレッジマネジメント219号
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技術革新により、産業構造や働き方が劇的に変化することが予想されます。本連載では、領域×Technology=「X Tech(クロス・テック)」に着目し、産業の大きな変化の兆しを捉えていきます。藤田亮恭氏 株式会社野村総合研究所 グローバル製造業コンサルティング部 上級コンサルタント取材協力#04 MedTech(医療とテクノロジー)AIによる診断と医療ロボットが、超高齢社会の救世主となるかで変わる産業これまでの医療分野のIT化は、医用画像管理システムやオーダリングシステム(検査や処方等の指示を電子的に管理するシステム)等バックオフィスが中心だった。電子カルテに至っては、既に大病院の約8割に導入されている。だが今、革新的なIT進化が起きているのは、臨床の現場だ。「アメリカでは、眼底カメラの画像から人工知能(AI)を用いて、糖尿病性網膜症を診断するプログラムが承認されました。より専門的な診療を受けたほうがいいのか、それ以上の診療が不要なのかを判断するプログラムです」(野村総合研究所・藤田亮恭氏)確定診断が自動化される期待もあるが、その実現には難しい課題が山積している。診断結果を判断して伝えるのは、最終的にやはり人間である医師の役割。何か問題が発生した場合のAI開発側と医師・医療機関との間の責任の所在の判断等、法律的な課題もある。一方で、前述のような(確定診断ではない)スクリーニング検査や、病理や放射線の画像診断の現場においては、AIによる画像解析を活用する医療機関は増えていくだろうと藤田氏は語る。さらに、手術支援、介護等の医療用ロボットの活用も進んでいくという。「これから日本はますます高齢化が進み、医療従事者の負荷も高くなります。診断の正確性を上げ、かつ多くの患者の診察をするにはITの力を借りる必要があります。その解決策の一つはAIであり、医療用ロボットの活用も欠かせません。代表的な例としては手術支援ロボットです。手術支援ロボットにより難易度が高い手術の成功率も上がり、保険適用も広がってきたことで、日本でも台数が着実に増えてきました」(藤田氏)手術支援ロボットは米国インテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社が開発したダヴィンチ(da Vinci)がトップシェアを占めていたが、今は様々な医療メーカーのロボットが開発されているという。野村総合研究所の調査研究では、医療・介護用ロボットの市場規模は2024年には760億円にも上ると予測されている(図1)。少子高齢化が進む日本の医療を支える診断の自動化やロボット開発には、ハードウエアだけではなく、優秀なデータサイエンティストやソフトウエアエンジニアが求められる。「AI・ソフトウエアの知識がベースとなるのはどの業界も共通ですが、医療では最終的に人が介在する部分が大きい。生死に関わる診療に対して、人間が担ってきた判断や、告知するという価値や責任を、AIやITで置き替えられるのか否かにも目を向けなくてはいけません。また、失敗が許されない領域でもあるので、その科学的根拠を論文として出し、エビデンスを示すには他業界よりも時間がかかります。その時間軸を考慮して動くことも必要とされます」(藤田氏)藤田氏が強調する倫理基準や法的規制が整備され、人手不足や医療費高騰に歯止めをかけるイノベーションに期待したい。(文・馬場美由紀)01002003004005006007008002018201920202021202220232024(年)(億円)216289362462561661760図1 医療・介護用ロボットの市場予測(出典:野村総合研究所)

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