カレッジマネジメント219号
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36リクルート カレッジマネジメント219 / Nov. - Dec. 2019県外からの入学者が多いことを特徴とする神戸女子大学であるが、実は、他方で第一志望で入学してくる者は半数強にとどまる。ということは、半数弱は不本意入学者と言えなくもない。それらの学生の学生生活を、如何に楽しく意義あるものにして、社会に送り出すか、これが大学全体の課題である。そして、そのことを栗原学長は、「学生一人ひとりのニーズを把握して、一人ひとりを個人として大切にすること、これが大学の教育方針です。卒業生が、大学をちょくちょく訪ねてくれること。学生が卒業式のときに、本当は第一志望ではなかったけど、この大学でよかったと言ってくれること。高校の先生が、学生をこの大学に送ってよかったと言ってもらえること。このような大学であることを目指してきました。そして、この一人ひとりを大切にすることは、究極的には自分でものを考えられるようになることです。そのためにきめ細かく相談に乗るのです」と語られる。では、そうした大学になるために、大学全体としてどのような取り組みをしているのかと尋ねると、不思議なことに、FDとして特筆すべき活動は特段ないと言われる。むしろ、そのような雰囲気が言葉にせずとも大学全体に共有されていて、自然と行われているのだという。形になっているものとしては、1クラス40人のクラス担任制が敷かれ年1回の個人面談があるが、それは必ずしも珍しいものではない。むしろ、年1回の面談に限らず、何かあったらいつでも相談に乗っていること、研究室のドアをノックする学生がいたら、仕事の手を休めて学生に向き合うこと、これが日常なのだという。大学に染み渡っているこうした雰囲気の中で、どの教員も赴任して数年もすると、それが当たり前になるのだそうだ。だからこそ、一人ひとりを大切にすることができるのだろう。単純計算した教員1人あたりの学生数は19.8人、教員にとっても学生一人ひとりに目が届く数である。学生一人ひとりが大切にされていることの、もう1つの証左は、退学率の低さにも見ることができる。学生数2000名以上の関西の私立大学の退学率を低い順に並べてみると、神戸女子大学は0.8%で2番目に位置づいている。半数弱が第一志望でなくても、大学生活に満足して卒業しているのだ。こうした方針に貫かれた教育は、学生にも伝わっている。2017年、18年の2カ年度にわたって行われていた、学生企画による受験生向けの「SaKuRa Yell's」プロジェクトがそれである。かつての受験生達は当時の不安な心境を振り返りつつ、どのようにしたら受験生が受験時にほっとできるか、そして、この大学を選んでくれるには何をすべきかを考えた。具体策は、一般入試時に、写真にみるような「『がんばれ』の代わりに小さな春をキミに。」との言葉が添えられた桜模様の合格祈願カイロをそっと手渡す、また、合格発表日には、合格通知書に6名の学生生活を小説仕立てにした冊子と合格お祝い動画が見られるQRコードを同封することとして結実した。お祝い動画は、まだ国公立受験等のある受験生の心理を考え、在学生が合格を歓迎する気持ちのみを伝えるものとした。学生達は、この大学にきてよかったと思っているからこそ、受験生の心理に配慮しつつ大学の魅力を伝え、希望して入学する者を増やそうとしたのだ。もう少し続いてもよかったのにと思うのは、筆者1人だけではないだろう。さて、洋裁学校としての出発は、当時の戦争未亡人が子どもを抱えていても生きていけるように手に職をつけることにあったという。その点では、資格志向の実学主義は、現在でも生きている。建学の精神にある「勤労と責任を重んじ」、教育綱領に示されている「勤労を愛し義務と責任を重んじ」という文面は、それを表している。自立し学生企画による受験生向けの「SaKuRa Yell's」プロジェクト学問の楽しさを教える細やかな配慮に満ちた日常
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