カレッジマネジメント219号
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37リクルート カレッジマネジメント219 / Nov. - Dec. 2019た人間としての社会貢献は勤労にある。だからといって、就職がターゲットではない。「資格を取らせることで終わってはならないのです。変化の激しい時代、資格だけでは変化に対応できません。大学でしかできないこと、即ち、学問がベースにある教育をと考えておりますし、学生には研究マインドを身につけて巣立っていってほしいと願っています。研究マインドとは、いわば自分で問うことができることなのです」。栗原学長の話は熱を帯びる。そのために、表1に見るように、多くの学部・学科が入門ゼミを設置し、卒研ゼミにおける卒論を必修としている。卒論の準備は3年生から始まる。確かに、ゼミは少人数であり、そこで一人ひとりに目をかけながら、学問をするとはどういうことかを教えることができる良い機会だし、卒業論文・研究は4年間の学習の総合である。とはいえ、資格試験準備に多くの時間をかける中、それに加えて、卒業論文の制作に励むことは、時間のやりくりという点と方向性の違いという点で大変だ。方向性の違いに関して言えば、資格試験準備であれば、大学受験の延長で正解の追究に励むことで目標達成に近づくことができる。しかしながら、研究とは、自分が明らかにしたいことは何かと問いを立て、それが他者によって達成されていないことを確認し、そのうえでその問いを自分で解いていくという作業である。大学でしかできないことと学長が言われるのは、まさにここにある。ただ、社会で仕事をすれば、自分で問うことの連続であることはすぐ分かる。資格だけで生きていけないと学長が言われるのは、受験のために覚えた知識だけでは、不十分だという意味であろう。「自分で問う」ことと、「自分でものを考える」とは通底しているし、資格を取得して勤労することと、研究マインドを持つこととも通底している。4年間かけて、学生一人ひとりに向き合って、そのことを教えているのである。話がややそれるが、ほぼすべての学部・学科に博士課程までの大学院を設置することの意味は、この学問の楽しさを教えることの一環であるという。小規模ながらも博士課程までを持つことで、学問の楽しさに目覚めた学生をさらに研究にいざなうだけでなく、学問を追究しようという教員を増やすことができるのだそうだ。学長によれば、教育の質は教員の質で決まるところが大きく、教育の質を上げようと思えば、質の高い教員を雇用する必要があり、質の高い教員を雇用するためには大学院の存在は魅力の1つになるという。「うちの卒業生は、どちらかといえばおとなしく、まじめだけれど、自己主張をすることがないようで…」と学長は謙遜されるが、本心は逆だろう。「うちの卒業生は、自己主張をするよりも、コツコツとまじめに仕事をし、努力することは惜しみません」と。そう言えるだけの教育をされている自負を感じる。(吉田 文 早稲田大学教授)※1 厚生労働省 第31回社会福祉国家試験学校別合格率※2 厚生労働省 第33回管理栄養士国家試験の学校別合格者状況特集 進路の意思決定を科学する表1 学科別ゼミ・卒業論文必修一覧(2019年度入学生用)学部学科名入門ゼミ卒研ゼミ卒業論文文学部日本語日本文学科○○○英語英米文学科○○○国際教養学科○○史学科○○○教育学科○○○家政学部家政学科○○管理栄養士養成課程○○健康福祉学部社会福祉学科○○○健康スポーツ栄養学科○○○看護学部看護学科*1*2*1看護学部は「学びのグループゼミ」を1年生から4年生まで開講。対話による看護の表現力、看護の実践力、コミュニティを育む力を修得することを目的としており、1年生から4年生で構成した8グループに分かれ、同級生同士の横のつながりだけでなく、上級生・下級生の縦のつながりの中で、看護の学びを共有している。*24年生では卒業論文に替わるものとして「課題探究」という統合科目の中でレポートを作成しており、実践への深い関心と看護への探究心を育成し、卒業後のキャリア開発につなげている。
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