カレッジマネジメント219号
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41リクルート カレッジマネジメント219 / Nov. - Dec. 2019は別に、学年ごとに全員必修としている「共通課題」であり、「共通課題Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」として、学年ごとに、全ての学生に共通した方法で学修成果をアセスメントすることを取り入れていることである(図表3)。その内容は、「共通課題Ⅰ」は、1年時の共通課題として、テーマを決めて学生に毎週、新聞記事をスクラップさせ、学長と副学長を交えて、その内容についてグループでディスカッションするものである。テーマには、コンビニエンスストアの24時間営業のあり方、高齢者ドライバーの自動車免許のあり方等、現代的な課題を設定し、新聞報道や参考文献を参考にして、法律や経済等の授業と関連づけながら自分の考えをレジュメにして学生が報告し、学長と副学長がその内容を評価していく。「共通課題Ⅱ」は、2年時の共通課題として、商学を構成する法律・経済・会計・流通・経営の5領域について専門知識の試験を行い、一定の点数以上を取ることを必須としている。このような共通試験を行うことで、単位認定の甘い授業やしっかり勉強させていない授業があることに気づくという。「共通課題Ⅲ」は3年時の共通課題として、課題図書に指定した50冊の中から学生がレポートを書き、そのレポートに基づいて、学長が1人15分の面談を全員と行うものである。大学3年生にふさわしい受け答えができるかどうかを確認しているという。このように授業科目とは別に、「共通課題」として学修成果をアセスメントすることで、個々の学生の状況を学長が直接把握しているのである。このことを通じて、優秀な学生やそうでない学生がどのゼミに所属しているかが分かり、また、問題があると思われる場合には教員や授業のあり方に働きかけていることから、「共通課題」は教員にも緊張感をもたらしているという。さらに、このような内部試験による学修アセスメントだけでなく、外部試験としてTOEIC®やSPI、PROG等も活用するとともに、内部調査として毎年の学修行動調査を行っている。特に、学修成果を高めるために、授業外学習時間を推進する仕組みを新たに導入した。授業外学習時間の目標を週10時間に設定して、学生に学習を促すとともに、大学のシステムとして、毎週の授業外学習時間をウェブで登録する仕組みを導入し、学生にスマホで授業外学習時間の状況を入力させている。そして、教員・職員が学修状況を確認し、学生指導に利用している。学修アセスメントとして、内部試験・外部試験・内部調査を体系的に取り入れ、学生の学修成果を高めるために、教育改善や学習指導に活用しているのである。このような取り組みは、野又学長が2015年に学長・理事長に就任してから、新たに取り入れたものである。野又学長は「大学では当たり前のことがこれまで行われていなかった。教職員の人事評価も目標管理的な取り組みも、当たり前のことをやっている。学生がなぜ大学に通っているのかを考えたら、教育の改善点はいくらでもある」と話す。そして、新たな取り組みを進めることで、学生が主体的に関わり、勉強している姿が地域の人にも認められるようになってきたという。入学者の7割が北海道出身、その大半が函館周辺の出身である函館大学にとって、地元の高校や地域からの評価は重要である。学生の地域での主体的な活動がメディアで取り上げられたり、学生の活動や学修成果のアセスメントの取り組み等を入試広報を通じて高校にも伝えるなかで、高校からの評価は変わってきているという。そして、自治体の側から大学との連携が提案されるようになる等、学生の学びが波及してきているとのことである。かたちのある成果につながっているのである。このような函館大学の取り組みは、小規模な地方単科大学による先進的なものと言えるだろう。ただオープンキャンパスの企画・運営を学生に任せるようにしたのではなく、学生を組織的に育てる仕組みを発展させており、学生主体のオープンキャンパスは、学生を育てる活動の一部でもあり、その成果とも言える。野又学長は「オープンキャンパスを学生に任せることは、他の大学でもできるのではないか。学生を信じていればできる」と話す。函館大学の取り組みには、教職員と学生への信頼が背景にあり、それは、学修成果のアセスメントとして、学長自身が全ての学生の学修成果に直接関わっているという具体的な根拠に基づいている。このような裏付けのある自信と信頼に基づいて、学生に任せることができる学長や大学はどのくらいあるだろうか。学生主体のオープンキャンパスに象徴される新たな取り組みを経た卒業生を輩出していく函館大学の今後の動向には引き続き注目が必要である。(白川優治 千葉大学 国際教養学部 准教授)特集 進路の意思決定を科学する当たり前のことを当たり前に取り組むという改革

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