カレッジマネジメント219号
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542013年5月の教育再生実行会議第三次提言『これからの大学教育等の在り方について』において、「意欲ある学長がリーダーシップを発揮して果敢に改革を進められるよう、大学のガバナンス改革を進めるとともに、改革を進める大学には官民が財政面の支援をしっかり行うことにより、経営基盤を強化する必要があります」との方向性が示されて以降、「学長のリーダーシップ」は今日の大学改革を象徴する重要な要素となった。これらは、指導者としての地位・役割・権限に着目したものであり、これからの大学の指導者に如何なる能力が求められ、それをどう育成し見極めるかといった観点からの議論が掘り下げて行われた形跡はない。学長に確かな地位と権限を与えれば改革が進むと短絡的に考えているわけではなかろうが、その側面を強調しすぎると、地位と権限があれば人は動くとの思い違いが起き、思い通りにならない時は、権限が不十分、構成員の意識や能力に問題がある等、他に原因を求めがちになる。トップダウンこそリーダーシップとの思い違いも少なくない。その背景には「これまでの大学はボトムアップ、企業はトップダウン。大学にも企業経営のようなスピードが求められる」といった一面的で正確さを欠く理解がある。会長または社長が最高執行責任を負い、権限を有することは事実だが、良し悪しは別にしてボトムアップやミドルアップダウンが日本的経営の特質と評されてきた面もある。また、CEO(最高経営責任者)が強いリーダーシップを発揮するといわれる欧米企業でも、エンパワーメントの考え方に基づき副社長以下に大幅に権限委譲するケースが多い。リーダーシップは学長はじめ上位役職者に求められるものとの理解も重大な思い違いの一つといえる。法人は教学に、教学は法人に問題があると言い、上位者は下位者に、下位者は上位者に問題があると言う。原因を他に帰せがちな傾向、つまり当事者意識の希薄さは大学の変革が進まない根本原因の一つである。リーダーシップは管理者だけに求められるものではない。リーダーシップを発揮できる人材が組織内にどれだけいるか、それを育む組織文化をどう根づかせるかは、大学が困難を克服し、未来を切り拓くための不可欠の要素である。国公私立を問わず多くの大学が政策に翻弄され、組織や制度、それも外装を整える「改革」に貴重な資源と時間を費やされている現状に強い危機感を抱かざるを得ない。そもそもガバナンス、マネジメント、リーダーシップをそれぞれどう定義し、これら3つの関係をどう捉えて、大学に改革を促しているのだろうか。大学は、これらをどう理解し、改革の方向性や手順を考えているのだろうか。本稿では、ガバナンスを「大学がその役割を果たすために、ステークホルダーの視点から経営を規律づけるための枠組みであり、トップマネジメントの任免、機関としての意思決定、業務執行の監督、活動成果の開示等を大学を強くする「大学経営改革」大学における「リーダーシップ」を問い直す吉武博通 公立大学法人首都大学東京 理事──困難を克服し未来を拓くために必要なものリクルート カレッジマネジメント219 / Nov. - Dec. 201984思い違いが目立つ「リーダーシップ」複雑な状況に対処するのがマネジメント変化に対処するのがリーダーシップ

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